黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
「……ありがとうございます」

甘えるように肩をぶつける。
きっと、すぐにでも帰ってきたかったに違いない。
それでもちゃんと仕事はこなしてきた。
もし、いくら私のためでも裁判を放って帰ってきていたら、軽蔑していたかもしれない。

「そんなわけで明日の朝にはまた向こうに行かないといけないけど、今日は一緒にいるよ」

くしゃりと柔らかく、晴貴さんが私の髪を撫でる。
それだけで涙がじわりと浮いてきた。

「……はい」

湿りそうになる声を、鼻を啜って耐える。
――けれど。

「……僕と一緒のときくらい、我慢しなくていい」

晴貴さんの腕が、私を包み込む。
ふわりと香る、彼の匂い。
すぐ傍に感じる、体温。
ゆっくり私の髪を撫でる、手。
それらすべてが私を弱くさせる。

「なんで私が、こんな目に遭わなきゃいけないんですか」

「そうだな」

「私、なにもしてないのに」

「わかってる」

しゃくり上げながら話す私に、晴貴さんが優しく相づちを打つ。

「私、憲吾先生や篠木さんに恨まれること、しましたか」

「してないな」

「憲吾先生も篠木さんも――」

「夏初」

――同じ目に遭えばいい。
< 268 / 287 >

この作品をシェア

pagetop