【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

第4話

「愛している」

思考が止まった。
いや、正確には、止まってくれたほうが楽だった。

病室の空気は静かなのに、私の心臓だけが救急搬送されそうなくらいうるさい。

「……そういうの、軽々しく言わないでください」

やっと絞り出した声は、情けないくらい掠れていた。

怜央は、少しだけ眉を寄せる。

「妻に愛していると言うのが、軽々しいのか?」

「私は、その……!」

妻じゃない。
いや契約上は妻だけど、そういうことじゃない。
自分で自分の立場がわからなくなって、言葉がぐちゃぐちゃになる。

すると怜央は、繋いだままの私の手をほんの少し引き寄せた。

「困らせたいわけじゃない。ただ……君を見ると、妙に安心する。頭の中は空っぽなのに、君だけは失いたくないと思う」

まっすぐすぎる。
記憶喪失って、人をここまで無防備にするものなんだろうか。
冷たい名医だったはずの人が、こんな顔をするなんて、取材した頃の私に言っても絶対信じない。

「また来てくれるか」

そんなふうに聞かれて、嫌だなんて言えるわけがなかった。

「……来ます」

答えた瞬間、怜央の目元がわずかにほどけた。
笑った、というほどではない。
でも、あれを笑っていないと言い張るのは無理があるくらい、きれいにやわらいだ。

「よかった」

それだけで、心臓がキャパオーバーした。
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