【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻
午後、怜央に頼まれて書斎へ入った。
『机の右の引き出しに、青いファイルがある。それを御堂に渡してほしい』
病院からの電話でそう頼まれ、私は一人で重い扉を開ける。
高い本棚、整いすぎた机、窓際の革張りの椅子。
人の部屋というより、思考そのものを形にしたみたいな場所だ。
言われたとおり右の引き出しを開けて、私は手を止めた。
青いファイルの下に、見覚えのある雑誌があった。
『若き天才心臓外科医、命をつなぐ手』
医療特集号。
端が少し柔らかくなっている。
何度か開かれた本の癖までついている。
ページをめくると、見慣れた自分の名前があった。
――文・桐生梨音
息が詰まる。
私が書いた記事だ。
取材のあと、編集部と何度も揉めて、派手な煽りを削って、ぎりぎり守れた言葉だけを残した、あの記事。
どうして、ここにあるの?
しかも、付箋が貼ってある。
怜央の几帳面な字で、余白に短くメモがあった。
『誠実な記者の性格が反映された、正確な文章』
思わず、変な笑いが漏れそうになる。
あのとき私は、冷たい名医をただのイケメン御曹司という言葉で括りたくなかった。
編集部には地味だと言われたけれど、どうしても譲れなかった部分だった。
それを、この人は読んでいた。
ちゃんと見つけてくれていた。
それだけで、自分が記者をやってきて良かったと思えた。
『机の右の引き出しに、青いファイルがある。それを御堂に渡してほしい』
病院からの電話でそう頼まれ、私は一人で重い扉を開ける。
高い本棚、整いすぎた机、窓際の革張りの椅子。
人の部屋というより、思考そのものを形にしたみたいな場所だ。
言われたとおり右の引き出しを開けて、私は手を止めた。
青いファイルの下に、見覚えのある雑誌があった。
『若き天才心臓外科医、命をつなぐ手』
医療特集号。
端が少し柔らかくなっている。
何度か開かれた本の癖までついている。
ページをめくると、見慣れた自分の名前があった。
――文・桐生梨音
息が詰まる。
私が書いた記事だ。
取材のあと、編集部と何度も揉めて、派手な煽りを削って、ぎりぎり守れた言葉だけを残した、あの記事。
どうして、ここにあるの?
しかも、付箋が貼ってある。
怜央の几帳面な字で、余白に短くメモがあった。
『誠実な記者の性格が反映された、正確な文章』
思わず、変な笑いが漏れそうになる。
あのとき私は、冷たい名医をただのイケメン御曹司という言葉で括りたくなかった。
編集部には地味だと言われたけれど、どうしても譲れなかった部分だった。
それを、この人は読んでいた。
ちゃんと見つけてくれていた。
それだけで、自分が記者をやってきて良かったと思えた。