秘書の誕生日、一夜のはずが社長に溺愛されています
思ったこともなかった。

「だから」

社長の声が、少しだけ低くなる。

「他に譲る気はない」

逃げ場を与えない言葉。

でも――それが嫌じゃない。

むしろ、嬉しいと思ってしまう。

「……ずるいです」

ぽつりと呟く。こんなこと言われたら。

もう、逃げられるわけがない。

「そうか」

少しだけ、柔らかく返される。

そのまま、唇が重なる。

優しくて、でも確かに奪われるキス。

「お前は、俺のものだ」

耳元で囁かれる。

その言葉に――私はもう、何も言い返せなかった。

静かな時間が、ゆっくりと流れていた。

さっきまでの言葉が、まだ胸の奥で響いている。

(特別……)

その余韻の中で、ふと社長が立ち上がった。

「……社長?」

何も言わず、デスクの方へ歩いていく。
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