闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜
第10章 僕を『兄』にした罪
お盆休みの初日。
昼前、重たいキャリーケースを
引きずるようにしてマンションのエントランスを出た。
夏の日差しとまとわりつくような熱気。
蝉の声が鳴り響く中、
見覚えのある一台の高級車が、
マンションの前に停まっていた。
「——準備できた? 送っていくよ」
車のキーを指先でくるりと回し、
手の中でチャリ、と握った颯。
猛暑の中、
彼は暑さを全く感じさせない
涼しげな笑顔でそこに立っていた。
「えっ、でも悪いし……」
「いいんだよ、美桜のご両親にも挨拶しておきたいし。それに、その重たい荷物を一人で持って移動するのも大変だろ?」
颯はそう言うと、
私の重いキャリーを軽々と手に取る。
「……そう言うなら、じゃあ……お願いします」
私は彼の言葉に甘えるように、
車に乗り込んだ。
***
颯の運転する車で、私たちは
一時間半ほどかけて地元へと向かった。
窓の外の景色が、
高層ビルから緑の多い住宅街へと変わっていく。
「さっき、私の両親に挨拶するって言ってたけど、お兄ちゃんは実家に顔出さなくていいの?」
流れていく景色を眺めながら
私はぽつりと言った。
「……実家に顔を出すのは、お前をご両親に届けた後で十分だ」
少しだけ遅れて返ってきた彼の言葉。
穏やかだけど、どこか寂しさを含んだような
トーンの下がる声だった。