闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜
「ただいまー!」
実家に着き玄関を開けると、
エプロン姿の母が真っ先に顔を出した。
「美桜、おかえり!……まあ、颯くんも!暑い中、わざわざ送ってくれたの?」
「お久しぶりです。美桜がどうしても、お母さんの手料理が恋しいって言うので」
颯は「王子様」の微笑みを浮かべ、
抜かりなく用意された手土産の高級な菓子折りを渡した。
その完璧な振る舞いに、母は
「まあ、相変わらずいい子ねぇ」と目を細めて喜んでいる。
「じゃあ、これで僕は」
颯が会釈をし、去ろうとした時。
「あら、折角だから颯くんもうちに泊まっていったら? 今、ご実家誰もいないんでしょう?」
「え……?」
母の言葉に、思わず声が漏れた。
さっき車の中で、颯は
『私を届けた後に実家にも顔出す』
って私に言ったのに。
「でも……僕がいたら家族団欒の邪魔になるので」
「いいのよ、気にしないで。人は多い方が賑やかだし、客間も準備できてるから」
「……いいんですか? すみません、ならお言葉に甘えて」
私が戸惑う横で颯は、
爽やかな笑顔を母に返した。
***
夕食の食卓。
父も仕事から帰るなり、颯を大歓迎した。
「颯くん、美桜が大学で迷惑かけてないか? この子はおっちょこちょいだからな」
「いえ、美桜は頑張り屋ですよ。僕の方が助けられているくらいです」
賑やかに笑い合う家族の中に、
颯はごく自然に溶け込んでいた。
私の好きなものが並ぶテーブル。
母の明るい笑い声。
だけど一瞬だけ。横に座る颯が、
窓の外を——暗闇の中に佇む、大きな、
けれど明かりの消えた「佐伯家」の方を、
冷ややかな目で見つめているのが見えた。