闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜
「……お兄ちゃん?」
彼は私の声に反応するように
肩をビクッと動かすと、
手に持っていた紙を
”サッ”と隠すようにして振り返った。
「美桜……どうしてここに」
「備品を返しに来たの。……お兄ちゃんこそ、ここで何してるの? ゼミの準備で忙しいとか言って……」
「ああ、資料の一部を探しに来たんだ。実行委員の連中に頼まれて、備品や模擬店の配置チェックも並行してやっててね。……ほら、暗いからもう戻ろう」
颯はいつもの笑顔を浮かべると、
私に歩み寄る。
「これ、俺が返しておいてあげるから」
そう言って、呆然と立ち尽くす
私の手からカゴを奪うように取った。
彼に促され、手を引かれるようにして
倉庫を出ようとした、その時。
——カサッ。
彼のポケットから一枚の紙が
音を立てて地面に落ちた。
「あ、なんか落ち——」
私が拾おうとした瞬間、
颯が私の手を素早く掴み、制止する。
「……見なくていい」
低く鋭いその声に、思わず息をのむ。
けれど、一瞬だけ見えてしまった。
地面に落ちたその紙には、
私が明日、実行委員として歩くはずの
ルート——模擬店、本部、休憩場所が
詳細に記載され、
そこに真っ赤なペンで
線や記号が書き込まれていた。
「颯……?」
「明日はお前も忙しいんだろ?早く帰って休まないと」
彼はすぐにいつもの表情に戻ると、
私の頭をポンと叩き、
その紙を素早くポケットにしまった。
(備品のチェックって言ってたけど——それならどうして、私のシフトや移動ルートばかりがあんな真っ赤に書き込まれていたんだろう……)
バッグの底にあるポーチの重みと、
颯が隠した「赤い地図」。
……あの驚くほどのインクの量。
けれど、私はその違和感を
”お兄ちゃんだから”という言葉で
無理やり心の奥底へと押し込んだ。
***
