闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜
「——ずいぶん、繊細なデザインなんだね。でも……その鍵で開く未来は、どこにも用意されていないよ?」
背後からの、ひどく穏やかな、
けれど温度を一切感じない声。
振り返るとそこには、
黒いコートを着た颯がいつの間にか
ホテルの入り口に立っていた。
「……颯……」
「……美桜、また俺に嘘をついたんだね。悲しいな。……けど、お前がその男とどんな『未来』を語るのか、あまりにも滑稽で、つい見入ってしまったよ」
「……先輩。もう、美桜ちゃんを解放してください」
碧くんが、私の前に一歩前に出る。
けれど、颯はくすりと優雅に笑った。
「解放? ……勘違いしないでほしいな。彼女を閉じ込めているのは俺じゃない。……彼女自身が、俺の隣を望んでるんだよ。前にも言っただろ、『共犯』だって」
颯がゆっくりと、雪を踏みしめて歩み寄る。
その凍りつくほど鋭い、
けれど誰よりも美しい瞳で、私を射抜いていた。
「……上城くん。君、自分が何をしたかわかってる? ……美桜に嘘を吐かせ、泣かせた上に、俺の大切な時間を汚した。その罪は、君のその安っぽいネックレス一つじゃ到底償えない」
颯はゆっくりと歩み寄り、
私の手からあの「未来の鍵」が入った青い箱を奪い取った。
「それは俺が——」
「君が、何だって?」
颯は碧くんを
ゴミを見るような目で黙らせると、
雪の中にそれを投げ捨てた。
そして、磨き上げられた革靴で、
ゆっくりと踏みにじる。
その時、箱の中から”パキッ”という嫌な音が響いた。
「……っ、やめて……っ!」
「いいんだよ、美桜。お前に必要な鍵は、俺がもう持っているんだから」
言葉を失う私を、
颯は強引に抱き寄せ耳元に顔を近づけた。
「……お仕置きが必要だね、美桜。
今夜は、お前が誰のものなのか——はっきり思い出させてあげるよ」
私を支える彼の腕は、
私の思考を麻痺させていく。
あまりにも強く、逃れられない、
そして。
抗えない暖かな体温。
もう、碧くんの方を
振り向くことさえできなかった。
——雪の降る聖夜の広場。
真っ白に降り積もる雪が、
彼の差し出した「未来」を
静かに埋めていく。
私は、彼が用意した
「永遠の聖夜」へと
自ら堕ちていくのだ——
***
