あなたをストーカーにしてごめんなさい
壊れた城と決別
麻衣子の家で行われた話し合いは、あまりにも一方的で、あまりにも無慈悲だった。
目の前に座るクソ旦那は、反省のいろなど微塵もなく、吐き捨てるように離婚の条件を突きつけてきた。
「借金は全額お前が払え。子供は連れてっていい。その代わり養育費は一円も出さねえ、条件のむなら男には手出しはしねえ。……それでいいな?」
全額。その重みに足がすくみそうになる。
夜の仕事以外で、コツコツと返していける自信なんてどこにもない。けれど、私はその震える足を踏ん張って、交渉に応じた。呆気なく私の失踪劇は終わった。
私にはカンチがいる。彼と一緒にいられるなら、どんな苦労だって耐えられる。そう信じて疑わなかった。
けれど、現実はそんなに甘くはなかった。
子供を連れて戻ったカンチの家は、以前の「隠れ家」とは全く別の場所になっていた。
子供が泣き、走り回り、カンチの大事なフィギュアや私物をなぎ倒していく。
「やめてくれ〜! 俺の城が! 破壊されるって……(笑)」
カンチは笑いながら言った。でも、その笑い声の裏にある困惑を、私は見逃さなかった。
手当たり次第に私に触れてきた、あの強引で愛おしい手も、子供の目がある場所では所在なげに浮いている。
彼が愛したのは「オンナ」としての私であって、生活感にまみれた「母親」としての私ではなかったのだ。
仕事も決まらない。保育園も通らない。
同棲している以上、行政の助けも期待できない。
それなのに、ポストには借金の返済通知が容赦なく届く。
「……ねえ、カンチ。私、出ていくね」
ある朝、いつものように5時に出勤しようとする彼の背中に、私はそう告げた。
カンチはボサボサの髪を一度だけ強くかき上げ、それからゆっくりと振り返った。
「……そうか」
引き止めてほしかったのか、それとも「勝(スーパースター)」らしく笑い飛ばしてほしかったのか。
彼が何を言い、私がどう返したのか、朝の光の中での記憶は、ひどく曖昧だった。
目の前に座るクソ旦那は、反省のいろなど微塵もなく、吐き捨てるように離婚の条件を突きつけてきた。
「借金は全額お前が払え。子供は連れてっていい。その代わり養育費は一円も出さねえ、条件のむなら男には手出しはしねえ。……それでいいな?」
全額。その重みに足がすくみそうになる。
夜の仕事以外で、コツコツと返していける自信なんてどこにもない。けれど、私はその震える足を踏ん張って、交渉に応じた。呆気なく私の失踪劇は終わった。
私にはカンチがいる。彼と一緒にいられるなら、どんな苦労だって耐えられる。そう信じて疑わなかった。
けれど、現実はそんなに甘くはなかった。
子供を連れて戻ったカンチの家は、以前の「隠れ家」とは全く別の場所になっていた。
子供が泣き、走り回り、カンチの大事なフィギュアや私物をなぎ倒していく。
「やめてくれ〜! 俺の城が! 破壊されるって……(笑)」
カンチは笑いながら言った。でも、その笑い声の裏にある困惑を、私は見逃さなかった。
手当たり次第に私に触れてきた、あの強引で愛おしい手も、子供の目がある場所では所在なげに浮いている。
彼が愛したのは「オンナ」としての私であって、生活感にまみれた「母親」としての私ではなかったのだ。
仕事も決まらない。保育園も通らない。
同棲している以上、行政の助けも期待できない。
それなのに、ポストには借金の返済通知が容赦なく届く。
「……ねえ、カンチ。私、出ていくね」
ある朝、いつものように5時に出勤しようとする彼の背中に、私はそう告げた。
カンチはボサボサの髪を一度だけ強くかき上げ、それからゆっくりと振り返った。
「……そうか」
引き止めてほしかったのか、それとも「勝(スーパースター)」らしく笑い飛ばしてほしかったのか。
彼が何を言い、私がどう返したのか、朝の光の中での記憶は、ひどく曖昧だった。