あなたをストーカーにしてごめんなさい
停滞と波紋
カンチの朝は早かった。
朝の5時。まだ外が薄暗い中、彼はボサボサの髪を揺らしながら仕事へと向かっていく。
「行ってくるわ、お留守番頼むな、スーパースターの女」
そう言って笑う彼を見送ると、部屋には静寂が落ちる。
家事も、育児も、夜の接客もない。何も求められない時間が、そこにはあった。私は二度寝をむさぼり、目が覚めればベッドの上で煙草をくゆらす。紫煙が天井に溶けていくのを眺めながら、ただゴロゴロと、時間の砂が落ちるのを待っていた。
お母さんであることを、一時停止している時間。
もちろん、子供のことが気にならないわけじゃない。小さな手の温もりを思い出して、胸が締め付けられる瞬間もある。
けれど、それ以上に怖かった。
パチンコに負けては不機嫌になり、私や家庭に当たり散らしていたあのクソ旦那の影が、今もどこかで追いかけてくるような気がして。
だからこそ、逃げるように身を寄せたこの部屋で、カンチとは毎晩のように愛し合った。呪いを上書きするように、何回できるかチャレンジした日もあった。
彼との激しい時間は、過去を忘れるための麻薬のようなものだ。
私は紫煙を吐き出し、カンチが残していった体温の余韻にくるまりながら、次の「現実」がやってくるのを先延ばしにしていた。
でも、そんな「永遠」は続かない。
失踪して10日が過ぎた頃、私は震える指でママ友の麻衣子に連絡を入れた。
『あんた、今どこにいるの!?』
返ってきたのは、悲鳴に近い返信だった。
家では私が消えたことで大騒ぎになり、警察への届け出も検討されているという。麻衣子とのやり取りで、現実が冷たい水のように部屋に流れ込んでくる。
「……もう、逃げきれない」
結局、麻衣子が間に入ることになった。
話し合いの場所は、麻衣子の家。
私と、あのクソ旦那と、そして私を探していた人々。
カンチの部屋を出る時、私は鏡に映った自分の顔を見た。
「オンナ」の顔になった私を、あいつらはどんな風に裁くのだろう。
朝の5時。まだ外が薄暗い中、彼はボサボサの髪を揺らしながら仕事へと向かっていく。
「行ってくるわ、お留守番頼むな、スーパースターの女」
そう言って笑う彼を見送ると、部屋には静寂が落ちる。
家事も、育児も、夜の接客もない。何も求められない時間が、そこにはあった。私は二度寝をむさぼり、目が覚めればベッドの上で煙草をくゆらす。紫煙が天井に溶けていくのを眺めながら、ただゴロゴロと、時間の砂が落ちるのを待っていた。
お母さんであることを、一時停止している時間。
もちろん、子供のことが気にならないわけじゃない。小さな手の温もりを思い出して、胸が締め付けられる瞬間もある。
けれど、それ以上に怖かった。
パチンコに負けては不機嫌になり、私や家庭に当たり散らしていたあのクソ旦那の影が、今もどこかで追いかけてくるような気がして。
だからこそ、逃げるように身を寄せたこの部屋で、カンチとは毎晩のように愛し合った。呪いを上書きするように、何回できるかチャレンジした日もあった。
彼との激しい時間は、過去を忘れるための麻薬のようなものだ。
私は紫煙を吐き出し、カンチが残していった体温の余韻にくるまりながら、次の「現実」がやってくるのを先延ばしにしていた。
でも、そんな「永遠」は続かない。
失踪して10日が過ぎた頃、私は震える指でママ友の麻衣子に連絡を入れた。
『あんた、今どこにいるの!?』
返ってきたのは、悲鳴に近い返信だった。
家では私が消えたことで大騒ぎになり、警察への届け出も検討されているという。麻衣子とのやり取りで、現実が冷たい水のように部屋に流れ込んでくる。
「……もう、逃げきれない」
結局、麻衣子が間に入ることになった。
話し合いの場所は、麻衣子の家。
私と、あのクソ旦那と、そして私を探していた人々。
カンチの部屋を出る時、私は鏡に映った自分の顔を見た。
「オンナ」の顔になった私を、あいつらはどんな風に裁くのだろう。