裏社会のドンは私を人質にできない

5.選べない立場

 アンダーグラウンドな社会を牛耳る六条家の新たなカシラ――六条万里生。
 クジャクの刺青を首から背中にかけて背負っている。
 その目はいつも容赦なく対峙するものを捉えていて、まるで獣のようだ。
 そんな彼は裏社会に突然現れた。
 犯罪歴ナシ。カタギ時代の情報もナシ。
 なぜそんな男がヤクザのドンに?

 ――マリオについて書かれたネット記事を見つけてしまったので、恐る恐る目を通した。
 これより先は有料になっていて諦めたけど、どうやらマリオは六条家に婿入りしたみたい。
 前と名字が違うし、娘がいるところも見ると、それは確実だろうと思った。

「ヤクザ……」

 スマホの画面を閉じ、私は顔を覆った。
 元々アブナイ男だったから、ヤクザになるのは腑に落ちてもいいはずなのに、どうしても納得できない。

「梶さん」

 聞き慣れない男の冷たい声がして肩が跳ねる。
 襖を開けるとそこには眞城さんが立っていた。

「おはようございます」
「ぉ、はようございます」

 眞城さんが軽く視線を落として挨拶するので、私も軽く挨拶を返した。

「梶さんには家事全般を任せます」
「え?」
「着いてきてください」

 私の疑問なんて気にもせず眞城さんが歩いていく。
 彼に家を案内されながら向かった先は、台所。

「適当に朝食をお願いします。ここにあるものは自由に使って構いません」
「あの……私はベビーシッターで、家政婦では」
「カシラの指示です」
「あの。そうなんでしょうけど……家政婦じゃないです」

 眞城さんは深くため息を吐くと、目を細めて私を見下ろした。

「役割を選べる立場だとでも?」
「そっちがベビーシッターを雇ったんですよね」
「ここがヤクザの別邸だと知らずに来たのは仕方ない」
「別邸……?」
「だが知った以上は、ここから出すわけにはいかない」
「いや別邸は知らなかったですけど……」
「ヤクザなのは理解してたでしょ」
「あなたがカシラって呼ぶからなんとなく……」

 ついいつもの癖で反論を繰り返してしまったことに気づき、口を覆う。
 眞城さんを見上げると彼の眉が吊り上がっていた。

「とにかく、あなたが選ぶんじゃない。こちらが指示をします」
「そんな横暴なこと……」
「したい仕事をできるかってのは、あなたの働き次第ってことです」

 そして彼は去っていった。
 何よ。全部向こうから開示したから知ってるだけでこっちは聞いてないっていうのに。

 好みも分からないのに、何を作れと言うのか。
 冷蔵庫を開きいくつかメニューを考える。

「出られない以上なにかはしなきゃ。朱里ちゃんはなにが好きかな」

 子供が好きなキャラ物を作ることに決め、私は袖をまくった。
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