おれが、おまえを、可愛くしてやる。

◇#29. 演技

『兄貴は関係者と打ち上げがあって朝までかかるらしい』
『琉実が眠るまでついているつもりだ』
『すまない』

 真冬の朝の空気が好きだ。頬に当たる鋭利な空気が気持ちよくて、清々しい。……けれども、わたしの胸に訪れるのは、言いようのない、寂寥感、だった。……あなたは朝になっても帰ってこなかった。わたしは夜通し起きていた。

 眠れなかった。勿論、琉実さんとあなたのことを疑ってなんかいない。けれど、……放っておけないほどに、琉実さんの状態がひどいのか。そして、そんな琉実さんを放っておけないなにかしらがあなたのなかに残っている――。

 この時点でわたしは確信していた。あなたは、かつて、琉実さんを、愛していた。でなければこの献身的な行為に説明がつかない。……今更蓮二がわたしを裏切るだなんて、馬鹿馬鹿しいことをするはずがない。と信じられるくらいに、わたしは、彼のことを信じ切っている。

 ただ。

 琉実さんのこころのなかにも、あなたが生きているだろうことが分かった。傷を癒すのが夫である幸一さんではなく、蓮二が傍についていなければならなかった……そんな事情があなたたちのあいだにあるということだ。
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