眠れない夜をかぞえて2
少し違和感があるとすれば、一ノ瀬さんと私の視線だろうか。仕事中でもつい一ノ瀬さんをつい見つめてしまうのだけれど、部下としての視線じゃなくて、恋人の視線になってしまうから、要注意だと思って気をつけてはいるけれど、感情のコントロールが難しくて、いつも瑞穂に揶揄われてしまう。

「日曜日も出勤していたんでしょ? 一ノ瀬さん」
「うん」
「私はそんなんじゃ満足しないけどな」

瑞穂は毎日会っていたいと常々言っているけど、結婚したら嫌でも毎日顔を合わせて暮らすのだから付き合っているときは、いいのにと思ってしまうのは私だけだろうか。

「あ〜お腹が張る」

と言いながら、瑞穂はサンドイッチを食べていた。瑞穂は体重の増加で主治医から厳しく指導を受けているのに、食欲が収まらず、仕事中も常に何か食べていた。

「食べるのをやめたらどう? 出産するとき大変なのは自分なのに。苦しくてもいいの?」
「つわりがひどくて食べられなかったから、今、栄養をとってるの」
「でも太り過ぎ」
「お義姉さんは怖いわね。産休に入ったらちゃんと管理するからさ、少しだけ多めに見てよ」
「渉はなにも言わないの?」
「お義姉さんと同じことを毎日いう」

瑞穂は少し不貞腐れたように言った。

「心配をしているからよ」
「わかってる、美緒だってこうなったら私の気持ちがわかるわよ」
「そういうもの?」
「そういうもの。さ、少し横になってこようかな?」
「どうぞ、ごゆっくり」

瑞穂は、よっこらしょと掛け声をかけて立ち上がると、横綱級の歩き方で休憩室へと向かった。
独身の頃は色気があって、常に女性として磨きをかけていた瑞穂だったけど、今や足元は白い靴下に、スニーカー。
リュックは自分の美意識に反すると言って、絶対に持たなかったのに、両手を開けたいという理由で、トートバッグからリュックに通勤バッグが変わっていた。
瑞穂は、女より母を選んで、さらにパワーアップしていた。

「まったくもう、後ろ姿は横綱ね。でも大変そう、妊婦って」

瑞穂と渉は、私が一ノ瀬さんと付き合うことを涙を流して喜んでくれた。自分一人が可哀想で、悲劇のヒロインだと思っていたあの時。
瑞穂がいなかったら私はまだ、一人で彼の影を引きずっていただろう。

「いけない、会議だわ」

出払っている人が多い事務所で、定例会議もないけれど、業務報告もしなくちゃいけないし、かっこいい一ノ瀬さんが見られるから、嫌いな会議も我慢ができる。
PCとマグカップを持って会議室に行くと、眩しいほどの素敵な上司が先に座っていた。背中に西陽があたって暑そうだけど、それが様になってとても眩しい。

「お疲れ様です」
「お疲れ」
「眩しくないですか? ブラインドを下げましょう」
「そうだな」

壁にあるタッチパネルを操作すると、自動でブラインドが下がる。シルエットのようだった一ノ瀬さんがはっきりと見えて、私は思わず笑顔になる。

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