`未完の恋、指先で溶かして
「俺はお前が憎いよ」

「なんですか、急に。呼び出してきてやめてください」


 馴染みのラーメン屋。湯気の向こうで、俺はそんな冗談を零していた。

 佐野とはよく飯を食う仲で、特に用事がない日でも、こうして顔を合わせるくらいだった。

 だけど、今日呼び出したのには、明確な理由がある。佐野がこの業界を去るつもりだという話を、彼と同じ会社にいる同級生から耳にしたから。

 本当は、放っておけばいいと思っていた。ライバルが一人減るだけだし。だけど、佐野の仕事に対する実直な向き合い方を知っている俺は、どうしても見過ごすことができなかった。

 コピーライターは、基本的には言葉を生み出すのが仕事で、キャッチコピーを書き上げた後は、撮影や動画編集にまで深く関わることは少ない。それなのに、佐野は毎回のように現場へ足を運び、最後の一コマが出来上がるまで必ず見届ける。その徹底したこだわりを風の噂に聞き、実際に現場で見かけたこともある俺は、コピーライターとしての佐野に信頼を置いていた。


「…何で辞めんの?」

「情報早いですね、相変わらず」

「そりゃあ、可愛い後輩の事だからさ」

「今はライバル会社ですけど」

「固い事言うなよ。相変わらず可愛くないな」


 憎まれ口を叩き合うが、俺からすれば佐野はやはり可愛い後輩だった。その素直じゃない不器用さが、俺は気に言っていた。
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