`未完の恋、指先で溶かして
 それから数日後。佐野はスーツに身を包み、俺の目の前に立っていた。向かい合って笑顔を向けると、佐野はあからさまにやりにくそうな顔をする。


「佐久間さん、無駄に俺のハードル上げたでしょ。今日出勤したら、クリエイティブ・ディレクターって聞いたんですけど。どうやったら、コピーライターがそんなことになるんですか」

「優秀なのはうちの会社にも届いてるってことだよ。自信持てって」

「まじで、何か騙された気分」

「人聞きが悪いなあ」


 軽口を叩きながら笑い、俺は佐野に右手を差し出した。

 佐野は差し出された手を一瞬眉を顰めて見ていたけれど、最後には観念したようにその手を握り返してきた。

 文句を並べながらも、結局はこうして受け入れてしまう。そんなところが、やはり放っておけない可愛い後輩だと思う。
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