未完の恋、指先で溶かして
「…佐久間さんに隠し事、出来ないですね」

「部下の事はよく見てるからな~」


 昔からの癖で、そのまま森山の頭を撫でてしまった。

 それに自分で気づいてハッとすると、慌てて手を離す。


「これ、セクハラなんだった…」


 そう言いながら、やり場を失った手を不自然に上にあげた。森山はそんな俺を少し不思議そうに見ていたが、やがて小さく笑みを零した。

 大学時代からの、身体に染み付いた癖。
 それは今の俺にも、まだ抜けきらずに残っていた。


「笑うなって」


 そう言っても森山はまだ笑っている。

 やっぱり笑っている方がいい。

 俺のこの感情が未練なのか、自分でもわからない。そもそも、もう好きではないと言い切れるほどの時間はまだ経っていない。

 だけど、好きだと言い切るには、今の俺の感情はあまりに曖昧だった。

 うじうじと悩み続ける自分に腹が立ったが、ひとまず今は、伝えておくべきことだけを言おうと思った。好意ではなく、彼女の力になりたいという意思表示で。


「…言いたくないなら言わなくていいけど、辛い時は俺の事逃げ場にしてもいいよ」

「…え?」

「ご飯でも、どこでも連れてくし」

「…ありがとうございます」


 こんな言い方をしたら、まだワンチャンスを狙っているように聞こえる。
 自分の言葉の端々に、隠しきれない未練が滲んでいた。

 ますます自分に嫌悪感が募る。


「よし、戻りますね!佐久間さん、ミルクティーありがとうございました!」

「うん、また」

「はい!」


 森山の背中を見送ると、俺は深く溜息を吐き、その場にしゃがみ込んで髪をくしゃっと乱した。


「…何がしたいんだよ、俺は…」


 そう呟いて、しばらくじっとしてから立ち上がる。

 俺が森山への感情を見失いかけているのは、間違いなく心のどこかに、一瞬でも真広のことを浮かべてしまった俺がいるからだ。

 こんな半端な感情で誰にも向き合えないと思っているくせに、俺はまだ、森山に近付こうとしてしまっている。
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