未完の恋、指先で溶かして
「…付き合うか、真広」


 そう囁いたとき、彼女が息を呑むのが分かった。

 こんなタイミングで口にすれば、同情で決めたのだと思われてしまうかもしれないけれど、決してそんな理由じゃない。


「そろそろ一緒に幸せになってもいいよな」


 耳元でそう告げると、抱きしめた彼女の身体が微かに震え出した。俺の肩に顔を埋めた彼女が、堪えきれずに、静かに涙を流しているのが伝わってくる。

 森山でもない、他の誰でもない。明るく振る舞いながら、ひとりで強がってきた彼女を幸せにしたい。これから先を、彼女と一緒に歩いていきたい。

 そう心から思ったから、俺は彼女を選んだ。


「…無理、してない? 同情した?」

「そんなんじゃない。ちゃんと考えて、真広がいいって思って選んだ」

「…何これ、ドッキリ? カメラある?」

「最近バラエティー出たから、警戒してんのな。こんな悪趣味なのしないだろ」


 ボロボロと泣きながら本気でドッキリを疑う彼女に、俺は思わず笑いを零した。


「揺れた時点で、負けだよな。きっと、どうしようもなく惚れてる」


 そう言うと、一瞬止まりかけた彼女の涙が、堰を切ったように再び溢れ出した。

 誰かを忘れるためじゃない。彼女だけを想い、彼女と一緒にいたい。

 こんな情けない自分を「好き」と言ってくれた彼女を、もう二度と、ひとりにさせてはいけない。


「好き」

「うん、俺も」


 言葉で、体温で、ひとつひとつ愛を確かめ合うように、二人の想いを溶かし合わせていく。


『未完の恋、指先で溶かして』──完
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