未完の恋、指先で溶かして
「何か不安?」

「え?」

「気のせいだったらいいけどさ」


 そう声を掛けると、真広はほんの少し顔を赤くし、「やっぱり空回りしてた?」と力なく笑った。

 その問いかけに軽く頷くと、真広はひとつ咳払いをして、ぽつりぽつりと話し出した。


「…真紘の時は、深く考えていなかったの。お互い仕事も忙しかったし、会える時に会うってスタンスで、平気で一ヶ月会わない時も結構あった」

「そうなんだ」

「でも、それでいいなって思ってたんだ。真紘とは無理しない付き合いが落ち着けて、お互い仕事を尊重しあえるところが好きだと思ってた。だけど、少しやっぱり寂しかったりもした。私を見てもらえてないな、って」


 佐野の考えていたことは、ある程度想像がつく。あいつも森山への気持ちを断ち切ろうとして真広と交際し、結局、果たせなかった。そんな彼の隣で、真広は本気で佐野に恋をしていた。

 俺は、間違えたと思った。始まりはお互いの恋を忘れるためだったかもしれない。でも、想いの形が変わった今、真広はそんな風に扱われていい人じゃない。

 彼女の歩んできた時間を想像すると、胸の奥が痛くて、苦しかった。

 他の誰でもない、この真広というひとりの女性を、今度こそ幸せにしてやりたいと思い始めていた。

 ほんの少しだけ泣きそうで、けれど必死に強がってみせる声。彼女はこの寂しさを、ずっと、何年も一人で耐えてきた。

 俺はたまらなくなって、彼女の身体をそっと抱きしめた。
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