`未完の恋、指先で溶かして
週末の金曜日、ふらっと一人でバーに寄った。
こんな風に独りでグラスを傾けるなんて、いつ以来だろう。最近は公私の境目が曖昧で、そんな余裕すら持てずにいた。
街を歩けば誰かしら知り合いに捕まってしまうし、本来独りで出歩くのは好きじゃない。
だけど、ここ最近のやりきれなさに心底嫌気がさして、逃げ込むようにしてここへ来た。
馴染みの店に久しぶりに顔を出し、カウンターの端でウィスキーを注文する。スマートフォンに視線を落とせば、いくつかの通知が溜まっていた。どれも急を要するものではないから、俺はそれらをすべて後回しにした。
溜重い溜息とともに画面を暗くした、その時「佐久間くん?」と、横から小さな声が聞こえてきた。その声に引かれるように顔を上げると、そこには奇妙な格好の女性がいた。帽子を深く被り、店内だというのにサングラスにマスク。職業柄、素性を隠したがる人種には見慣れているけれど、ここまで徹底されていると誰だか判別がつかない。
不審者を見るような目で彼女を見つめていると、彼女はサングラスを外し、マスクを少しだけずらした。そこにいたのは、香月 真広だった。
「…何してんの」
「変装! 見たらわかるでしょ!?」
「いや、怪しいって」
「怪しくても顔見られなきゃいいの!」
そう言いながら、彼女は当然のように俺の隣の席へ腰を下ろした。
彼女は、佐野の元恋人。森山と別れた後に付き合っていた女性だが、一年ほど前に破局している。当時、彼女からの猛烈なアピールに佐野が根負けする形で始まった交際だったけれど、結局最後まで佐野の心が彼女に向くことはなかった。
彼女もまた、いまだに終われない想いを抱えたまま、叶わない恋を続けている一人だった。
こんな風に独りでグラスを傾けるなんて、いつ以来だろう。最近は公私の境目が曖昧で、そんな余裕すら持てずにいた。
街を歩けば誰かしら知り合いに捕まってしまうし、本来独りで出歩くのは好きじゃない。
だけど、ここ最近のやりきれなさに心底嫌気がさして、逃げ込むようにしてここへ来た。
馴染みの店に久しぶりに顔を出し、カウンターの端でウィスキーを注文する。スマートフォンに視線を落とせば、いくつかの通知が溜まっていた。どれも急を要するものではないから、俺はそれらをすべて後回しにした。
溜重い溜息とともに画面を暗くした、その時「佐久間くん?」と、横から小さな声が聞こえてきた。その声に引かれるように顔を上げると、そこには奇妙な格好の女性がいた。帽子を深く被り、店内だというのにサングラスにマスク。職業柄、素性を隠したがる人種には見慣れているけれど、ここまで徹底されていると誰だか判別がつかない。
不審者を見るような目で彼女を見つめていると、彼女はサングラスを外し、マスクを少しだけずらした。そこにいたのは、香月 真広だった。
「…何してんの」
「変装! 見たらわかるでしょ!?」
「いや、怪しいって」
「怪しくても顔見られなきゃいいの!」
そう言いながら、彼女は当然のように俺の隣の席へ腰を下ろした。
彼女は、佐野の元恋人。森山と別れた後に付き合っていた女性だが、一年ほど前に破局している。当時、彼女からの猛烈なアピールに佐野が根負けする形で始まった交際だったけれど、結局最後まで佐野の心が彼女に向くことはなかった。
彼女もまた、いまだに終われない想いを抱えたまま、叶わない恋を続けている一人だった。