未完の恋、指先で溶かして
「で、いいわけ?人気モデル様がこんな所で」

「逃げ場が欲しくて」

「逃げ場?」

「どこに居ても見られてるのは仕事上仕方ないけど、ここはひっそり飲めるから。さっきまで裏手の部屋借りて飲んでた」

「大変そー」

「思ってないでしょ…! 」

「思ってるよ。てか、スキャンダルとか大丈夫なわけ?」

「大丈夫、それはそれはもう、めちゃくちゃ警戒してきたから」

「そういう奴ほど脇が甘くて撮られるんだよ」

「うるさいな…!」


 俺と真広は高校時代の同級生だ。彼女は当時からモデルの仕事を本格的に始めていて、あまり学校に姿を見せることはなかったが、数少ない登校日にはそれなりに言葉を交わす程度の仲ではあった。

 その後、俺がこの業界に入ったことで、仕事の現場で時折顔を合わせるようになり、今に至る。

 もっとも、俺はデスクワークが主体のストプラ局の人間だから、撮影現場で彼女と鉢合わせる機会はそう多くはなかったけれど。


「…佐久間くんは、何してんの」

「息抜き」

「一緒だね」

「お互い片思いも一緒?」


 揶揄うような口調で問い掛けると、真広は分かりやすく顔を真っ赤にした。本当に、昔から嘘をつけない人。

 佐野は、お世辞にも愛想がいいとは言えない。だけど、なぜか女にモテる。

 おそらく、その無愛想男が不意に見せる優しさがあって、そのギャップに、刺さる女性には刺さるのだと思う。

 森山も、そして目の前の真広も。
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