悪役と一線超えてから転生に気付いたんですがどうしましょう…?
リズが母と剣術や護身術の訓練を終えた後、疲れ果てて寝てしまった事は侍従から聞いていたので、サイドテーブルに一輪の花を置くだけに留めた。
「おやすみ、リズ。」
自分と結婚すればこうなることは当然わかっていた。
苦い面持ちで部屋を出ると、部下のロビンソンが壁にもたれかかりながらこっちを見ていた。
「良かったですね、お嬢様だけは殺さずに済んで。」
「ここでその話はするな。」
冷え切った視線を受けてロビンソンは「はっ」と姿勢を正した。
自分との婚約を破棄して嫁ぐ先だった「末席の皇族」は自身の子に王位を継がせることに必死な皇后の「排除すべき存在」だった。
そして既に婚約の話を進めていたリズの一家も暗殺依頼が来ていた。
侯爵家であっても、あっさり暗殺依頼を出すのか、と正直皇后に呆れた事は今も記憶に新しい。
―—そう、本当はリズの婚約解消にご両親が動いていることを知っていた。
だけど、リズだけは死なせたくなかったから両親に頼んでこの依頼だけは断ってくれと頼んでいた。
たとえ婚約破棄されて別の誰かのものになったとしても、彼女には幸せになって欲しかった。
両親は特例的にこの依頼を断る事を承諾してくれた。
けど、何故か胸騒ぎがして、丁度良く招待の手紙が届いたこともありリズの屋敷へ行くことに決めた。
あの日、自分の家業の事も暗殺依頼が出ている事も、全部話して侯爵家一家に逃げてもらおうと思っていた。
その為に背格好の似た代わりの死体を馬車に積んでいたとはリズは知る由もない。
帰りに5日かかったのも途中で腐りだした死体の処理をひっそりと行っていたのが影響していたりする。
(まさか、リズが8年も会っていなかった自分を選んでくれるなんて思いもしなかった。)
去り際に、本当ならリズのご両親に事情を話したかったのだが、リズが何も知らず呼びつけた馬車の御者はグレイソン家の手の者だった。
暗殺依頼の事や皇后の計画をバラしたとなればリズまで殺されてしまう事は明白だ。
食堂を出たら最後、どんな小さな声で話したとしても聞き取られてしまう。
知り合いが皆暗殺者という事実は時に安心できる事もあるが、ほとんどの場合に自分を脅かすのみだった。
常に監視されているようで自由な選択が出来ない。
嫌な予感は当たり、両親はリズと家を飛び出して邸宅に帰り着くまでの間に、既にリズの両親を亡き者にしていた。
もしリズが自分を選んでくれていなかったらと思うとゾッとする。
あれだけ頼んだ事であっても、自分の気持ちを知っていても、両親はリズを始末していた事だろう。
それが国家の暗殺を請け負う家門としての生き方だと。
皇后の気まぐれひとつで、生きる希望を失っていたかもしれない。
「調べるよう頼まれていた事ですが、」
とロビンソンに声をかけられ思考を止める。
「皇太子殿下や聖騎士クリストファー様、ロックウェル子息とは
社交界や皇宮へのご用事で数回の接点があり面識がありましたが、
最近王都に来られたばかりのギルバート様とエリザベスお嬢様は、
確かに面識も接点も一切ありませんでした。」
「そうか。」
その割に好きな食べ物まで知っていた事がひっかかるが。
暗殺一家なので主要な人物の好みについては食べ物は勿論のこと、女性の服装の好みまで把握している。
毒を盛りやすいか、食べ合わせによって解毒してしまわないか、どんな服装の女性諜報員が近付きやすいか…。
その全ては仕事を効率よくこなすためであり、失敗が許されないからこその徹底ぶりだ。
なのに何故リズが接点も無くギルバートの詳細な好みや日課、行動範囲を知っていたのか。
「それと、聖女シャーロット・ルシエルの件ですが、
西部の村の人間が、ある娘が傷を癒したとか魔獣を退けた…などの
それらしい噂を耳にしたことがあるという話を聞き、調査に諜報部員を数名送っています。」
「聖女…ね。」
忌々しい、と言った表情で呟く年下の主にロビンソンは怯えた表情になった。
伝説に散見される「聖女」が見つかったとなれば、また皇室が動き出すだろう。
あのリストにあった自分と聖女や皇太子の対決…。
それ以上に可能性を感じるのは謀反や国家転覆を狙うという内容。
内心、大臣どもや皇后の連日に及ぶ狂気じみた暗殺依頼には心底辟易している。
―——こんな事を強いている帝国の仕組みにも。
「…現実にならないといいんだけどね…。」
その呟きに頭上に疑問符を浮かべるロビンソンを振り返る。
「ロビンソンは結婚していたよね?」
「へっ?はい!」
明後日の方向からきた質問に驚いた様子で部下は頷く。
「その…、…」
黙り込んだ主人にピンときたロビンソンは言った。
「あ!お嬢様に攻められてばかりなのを気にしていらっしゃるとかですか?」
ズバリ言い当てられて顔が火照るのを感じる。
ことリズの事に関しては全く以って感情の制御が出来ない。
取り繕って情報が得られない方が嫌なので素直に聞き返す。
「…これって普通なの?」
「どちらかといえば、変わってるかと。
いや、たまに交代することはありますが毎回ですし…」
部下のあまりにあけすけな回答に顔をしかめてしまう。
「ご令嬢ですし、アルフレッド様がリードして差し上げれば万事解決かと。」
部下の一般的回答に頭を抱える。
リードも何も、何故かリズは手慣れているし、胸で挟んでとか口に咥えたりとか…今まで聞いたことも無いような事をしてくるというのに。
「それに、お嬢様はご満足なさっている様子ですし問題は何もないでしょう。」
言いながら、渋い表情で黙りこくる主を見て、ははーん。と口角を上げた。
「まぁ好きな女性の乱れる姿は見たいですよねぇ。」
返す言葉もない。
想像したことが一度も無いわけは無かった。
(もっとこう…純情なタイプだと思っていたんだけど…)
一途なのは間違いないし、可愛い。
けどベッドでの彼女は同い年のはずなのに年上のように感じる。
「まぁ、確かに問題はないんだよね。」
妖艶な笑みを浮かべて見下ろす彼女も魅力的で、結局僕はどちらでも好きだから。
ただ、彼女を自分の手で乱してみたいという欲も間違いなく心に存在していた。
「聖女を調べろなんて言うから興味でもあるのかと思ったんですが…
有り得ない話でしたね。」
「あえて言うなら早めに火種を始末してしまおうかと思っただけだよ。」
「怖!」
間髪入れず叫ぶ部下から今日のリストを受け取り目を通す。
地味に距離があってめんどくさい内容に、はぁっと嘆息する。
「たまには殺さない日を作って欲しいものだね。」
「恐ろしい世の中ですよね。」
フードを被り口布を引き上げながら、2人は馬車に向かった。
「おやすみ、リズ。」
自分と結婚すればこうなることは当然わかっていた。
苦い面持ちで部屋を出ると、部下のロビンソンが壁にもたれかかりながらこっちを見ていた。
「良かったですね、お嬢様だけは殺さずに済んで。」
「ここでその話はするな。」
冷え切った視線を受けてロビンソンは「はっ」と姿勢を正した。
自分との婚約を破棄して嫁ぐ先だった「末席の皇族」は自身の子に王位を継がせることに必死な皇后の「排除すべき存在」だった。
そして既に婚約の話を進めていたリズの一家も暗殺依頼が来ていた。
侯爵家であっても、あっさり暗殺依頼を出すのか、と正直皇后に呆れた事は今も記憶に新しい。
―—そう、本当はリズの婚約解消にご両親が動いていることを知っていた。
だけど、リズだけは死なせたくなかったから両親に頼んでこの依頼だけは断ってくれと頼んでいた。
たとえ婚約破棄されて別の誰かのものになったとしても、彼女には幸せになって欲しかった。
両親は特例的にこの依頼を断る事を承諾してくれた。
けど、何故か胸騒ぎがして、丁度良く招待の手紙が届いたこともありリズの屋敷へ行くことに決めた。
あの日、自分の家業の事も暗殺依頼が出ている事も、全部話して侯爵家一家に逃げてもらおうと思っていた。
その為に背格好の似た代わりの死体を馬車に積んでいたとはリズは知る由もない。
帰りに5日かかったのも途中で腐りだした死体の処理をひっそりと行っていたのが影響していたりする。
(まさか、リズが8年も会っていなかった自分を選んでくれるなんて思いもしなかった。)
去り際に、本当ならリズのご両親に事情を話したかったのだが、リズが何も知らず呼びつけた馬車の御者はグレイソン家の手の者だった。
暗殺依頼の事や皇后の計画をバラしたとなればリズまで殺されてしまう事は明白だ。
食堂を出たら最後、どんな小さな声で話したとしても聞き取られてしまう。
知り合いが皆暗殺者という事実は時に安心できる事もあるが、ほとんどの場合に自分を脅かすのみだった。
常に監視されているようで自由な選択が出来ない。
嫌な予感は当たり、両親はリズと家を飛び出して邸宅に帰り着くまでの間に、既にリズの両親を亡き者にしていた。
もしリズが自分を選んでくれていなかったらと思うとゾッとする。
あれだけ頼んだ事であっても、自分の気持ちを知っていても、両親はリズを始末していた事だろう。
それが国家の暗殺を請け負う家門としての生き方だと。
皇后の気まぐれひとつで、生きる希望を失っていたかもしれない。
「調べるよう頼まれていた事ですが、」
とロビンソンに声をかけられ思考を止める。
「皇太子殿下や聖騎士クリストファー様、ロックウェル子息とは
社交界や皇宮へのご用事で数回の接点があり面識がありましたが、
最近王都に来られたばかりのギルバート様とエリザベスお嬢様は、
確かに面識も接点も一切ありませんでした。」
「そうか。」
その割に好きな食べ物まで知っていた事がひっかかるが。
暗殺一家なので主要な人物の好みについては食べ物は勿論のこと、女性の服装の好みまで把握している。
毒を盛りやすいか、食べ合わせによって解毒してしまわないか、どんな服装の女性諜報員が近付きやすいか…。
その全ては仕事を効率よくこなすためであり、失敗が許されないからこその徹底ぶりだ。
なのに何故リズが接点も無くギルバートの詳細な好みや日課、行動範囲を知っていたのか。
「それと、聖女シャーロット・ルシエルの件ですが、
西部の村の人間が、ある娘が傷を癒したとか魔獣を退けた…などの
それらしい噂を耳にしたことがあるという話を聞き、調査に諜報部員を数名送っています。」
「聖女…ね。」
忌々しい、と言った表情で呟く年下の主にロビンソンは怯えた表情になった。
伝説に散見される「聖女」が見つかったとなれば、また皇室が動き出すだろう。
あのリストにあった自分と聖女や皇太子の対決…。
それ以上に可能性を感じるのは謀反や国家転覆を狙うという内容。
内心、大臣どもや皇后の連日に及ぶ狂気じみた暗殺依頼には心底辟易している。
―——こんな事を強いている帝国の仕組みにも。
「…現実にならないといいんだけどね…。」
その呟きに頭上に疑問符を浮かべるロビンソンを振り返る。
「ロビンソンは結婚していたよね?」
「へっ?はい!」
明後日の方向からきた質問に驚いた様子で部下は頷く。
「その…、…」
黙り込んだ主人にピンときたロビンソンは言った。
「あ!お嬢様に攻められてばかりなのを気にしていらっしゃるとかですか?」
ズバリ言い当てられて顔が火照るのを感じる。
ことリズの事に関しては全く以って感情の制御が出来ない。
取り繕って情報が得られない方が嫌なので素直に聞き返す。
「…これって普通なの?」
「どちらかといえば、変わってるかと。
いや、たまに交代することはありますが毎回ですし…」
部下のあまりにあけすけな回答に顔をしかめてしまう。
「ご令嬢ですし、アルフレッド様がリードして差し上げれば万事解決かと。」
部下の一般的回答に頭を抱える。
リードも何も、何故かリズは手慣れているし、胸で挟んでとか口に咥えたりとか…今まで聞いたことも無いような事をしてくるというのに。
「それに、お嬢様はご満足なさっている様子ですし問題は何もないでしょう。」
言いながら、渋い表情で黙りこくる主を見て、ははーん。と口角を上げた。
「まぁ好きな女性の乱れる姿は見たいですよねぇ。」
返す言葉もない。
想像したことが一度も無いわけは無かった。
(もっとこう…純情なタイプだと思っていたんだけど…)
一途なのは間違いないし、可愛い。
けどベッドでの彼女は同い年のはずなのに年上のように感じる。
「まぁ、確かに問題はないんだよね。」
妖艶な笑みを浮かべて見下ろす彼女も魅力的で、結局僕はどちらでも好きだから。
ただ、彼女を自分の手で乱してみたいという欲も間違いなく心に存在していた。
「聖女を調べろなんて言うから興味でもあるのかと思ったんですが…
有り得ない話でしたね。」
「あえて言うなら早めに火種を始末してしまおうかと思っただけだよ。」
「怖!」
間髪入れず叫ぶ部下から今日のリストを受け取り目を通す。
地味に距離があってめんどくさい内容に、はぁっと嘆息する。
「たまには殺さない日を作って欲しいものだね。」
「恐ろしい世の中ですよね。」
フードを被り口布を引き上げながら、2人は馬車に向かった。