再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。
「ここ、静かだろ。昔からたまに疲れた時にここに足を運んでたんだ」

「とても素敵なところですね」


 ロード様の言う通り、ここは王都の街中の喧騒からは離れているからとても静かな空間だった。


「おいで。少し歩こう」


 ロード様が私の手を取ってくれて、さりげなくそのまま繋がれる。それにドキッとしながらも、湖に一歩ずつ近づく。

 風が吹くたびに花の香りが辺り一面に広がり、幸せに包まれた。


「疲れた時に来ると仰ってましたけど、最近も?」

「いや、最近は全然だな。俺も久しぶりに来たよ」


 懐かしむように目を細めるロード様は、


「セーラが一度ニホンに帰った後に、よく来てたんだ」


 と言って私を見る。


「セーラを見送った後、自分でも思ってた以上にショックが大きかったみたいなんだ。毎日何かに取り憑かれたみたいに剣を振って、それで疲れて気が付いたらここにいる。その繰り返しだった」

「……私とロード様は、よくお話ししたり一緒にいる時間も多かったですよね」

「あぁ。だからかな。寂しくて仕方なかったんだ。俺はそれまで王族として何不自由ない暮らしをしてきた。だからセーラがいなくなって初めて、"寂しい"っていう感情を知った気がするよ」


 当時を思い出しているのか、苦い表情が見える。


「でも、その時思ったんだ。こんな自堕落な生活をしてちゃ、セーラに顔向けできないなって」

「……私に?」

「あぁ。セーラは一人で自分の世界に戻って、頑張って生きてるはず。セーラが一人で頑張ってるのに、俺が頑張らずにどうするんだって。そう思ってようやく奮起できた。だから今こうやって騎士団長として働けているのも全部セーラのおかげなんだ。セーラの存在が、俺を奮い立たせてくれたんだ」


 まさか、そんなことがあったなんて知らなかった。


「だからセーラがもう一度この国に来た時、本当はすごく嬉しかった。またセーラに会えたことが、嬉しくてたまらなかったんだ」

「……その言葉だけで、私はここに来た価値がありますね」


  私の存在が、誰かの人生に大きく関わっていただなんて。思いもよらなかった。


「私も日本に帰ってる間、ロード様のことをよく思い出していました。あの頃、ロード様とたくさんお話ししましたね」


 この世界についても、当時の瘴気についても。召喚されたことも、魔法のことも。いろいろなことを教えてくれたのは全部ロード様だった。

 日本語を聞いてくれたり、一緒に食事したことも何回もあった。

 王宮の中を案内してくれたり、最初に神殿へ連れていってセイロン様を紹介してくれたり。私がこの世界で生きるために必要なことを全部教えてくれた。

 ひとりぼっちでこの国にやってきて不安しかなかったあの頃の私を支えてくれたのは、確実にロード様だった。
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