再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。
「ロード様がいなかったら、多分私はこの世界で生きてはいけなかった。少なくとも、何も頑張れなかった。ロード様がいたから、日本にいる間もその思い出を胸にどうにかやってこれた」


 もう二度と会うことはないと思っていたけれど、それでもロード様の存在は確かに私の心に大きく残っていた。


「……そんな風に思ってもらえてたなんて、全然知らなかった」

「ふふ。私たち、同じですね」

「そうだな」


 お互いが、お互いの存在を知らず知らずのうちに糧にしていたなんて。

 へらりと笑うと、ロード様は繋いだ手にぎゅっと力を入れる。

 話しながら湖のそばまでやってきた私たちは、しゃがみこんで澄んだ水にそっと手を触れる。するとサラッとした冷たさの上に花びらが一枚落ちてきて、


「見て、ロード様。かわいい」


 とロード様に笑いながら見せた。


「セーラ、頭にもついてる」

「え?」


 隣にしゃがみこみ、繋いでいない方の手で私の頭から花びらを一枚取ってくれる。それをロード様がフッと吹くと、また風に乗ってどこかへ飛んでいった。

 それを見ていたら、たまらなく胸が苦しくなってゆっくりと立ち上がる。

 強い風が吹き、私の髪の毛がさらわれていくように揺れる。それにぎゅっと目を閉じてから、また開けた。

 湖と、綺麗な花と、隣にいる愛おしい人。その深い青色の瞳が、私を捉えた時。

 ……あぁ、この景色を。この瞬間を。失いたくない。ずっと、見ていたい。

 泣きそうなくらいに胸が昂り、強くそう思ってしまった。


「……ロード様」

「ん?」


 この気持ちがなんなのかは、疎い私でもなんとなくわかる。

 昔、お母さんが教えてくれたから。

 その人の笑顔をずっと見ていたい。失いたくない。誰にも渡したくない。ずっと隣にいたい。そう思ったら、それは"恋"なのだと。

 ……私は、ロード様のことが好きなんだ。


「……私、ここに残ってもいいですか?」

「……セーラ」

「私の生きる場所を、この国にしてもいいと思いますか?」


 真っ直ぐ前を向きながら聞いた私に、ロード様が息を呑んだような気がした。


「私に、居場所をくださいませんか? 帰る場所を。誰かが帰りを待っていてくれる。……私にも、そんな居場所をくださるのなら」


 同じように立ち上がったロード様を見上げて、


「ここに残ります。ここで生きていきます」


 そうはっきりと宣言する。

 その瞬間、ロード様がガバッと私を抱きしめて。


「俺が、セーラの居場所になるよ。セーラの帰る場所になる。だから。……ずっと、ここにいてくれ。ここで、一緒に生きていってくれ」


 その言葉が、胸に染み込み泣けてくる。


「……プロポーズみたい……」


 一緒に生きていってくれ、だなんて。そんなのプロポーズじゃないか。そう思って小さく笑っていると。


「そうだよ。プロポーズだよ」

「……え?」


 ロード様が身体を離して、そのままその場で跪く。


「セーラがここで生きていくって決めてくれたら言おうと思ってたんだ」

「う、そ……」

「セーラ。俺と結婚してほしい。俺がセーラの居場所になる。だから、ずっと俺の隣にいてください」


 片手を取り、その甲にそっとキスを落とすロード様。驚いていると、そのまま私を見上げて目尻を下げて。


「……セーラ。好きだ。あの頃からずっと。愛してる」


 とびきり甘い顔で笑うから、私は涙をこぼしながら頷くことしかできなかった。
 
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