再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。
「……賭け?」


 ごくりと、唾を飲み込む。


「私がここから無事に出られたら私の勝ち。出られなければ、カイエン様の勝ちです」


 ここで嘆いていたって、助からないんだ。それならば、私なりに全力で足掻いてみよう。


「私が勝ったら、もう全てを諦めて罪を償ってください」


 策があるわけではない。こんなのただの時間稼ぎだと思われても仕方ない。だけど、じっとしてるよりマシだ。


「セーラ様が負けた時は?」

「その時は、脱出ができなかったということ。煮るなり焼くなり、私の命は好きにしてくださって構いません」

「……そんな覚悟もないくせに、よく言えますね?」


 ピク、とこめかみが動かしたカイエン様に、私は無理矢理口角を上げる。


「覚悟ならありますよ。ここに一人で乗り込んだ時点で、最悪の事態も覚悟してるに決まってるじゃないですか」


 言葉ではカイエン様を煽っているけれど、本当は怖くてたまらない。手も足も身体も、ガタガタと震え始めている。でも、それを悟られたって構わない。

 怖いのと、覚悟が無いのは別だから。


「ここにずっといたって、どうせカイエン様はそのうち私を殺すのでしょう? それなら同じことですから」
「……まぁ、そういうことにしておきます」

「勝つ自信、無いんですか?」


 ピク、と。またこめかみが動いたのを見逃さない。


「随分と余裕ですね? 身体は震えてるくせに」

「はい。怖くてたまりませんよ。でも、何もしなくてもどうせ死ぬなら、今できることをしなきゃと思ってるだけです」

「先ほどの言葉、訂正します。……あなたは、本当に頭が悪い人ですね!」


 その言葉と共に、攻撃魔法がこちらに飛んでくる。

 わざと私から外したらしいその攻撃は、爆音を上げながら魔石を壊していく。


「今はまだ殺さないんじゃなかったんですか!?」

「気が変わったんですよ! あまりにもあなたが私の神経を逆撫でしてくるので!」


 もう、怖いなんて言っていられる状況ではない。一つ、二つ、終わりなく飛んでくる炎をすんでのところで避けて、隙を見てひたすら入り口に向かって走り出す。

 外れた魔法は何度も壁に当たり、どんどん魔石が砕け落ちていく。


「無駄だって言っているでしょう! 私以外に入り口の結界は破れません! 向かうだけ無駄です!」

「そんなのわからないじゃないですか! やってみないと! できないなんて決まったわけじゃない!」


 叫びながら走っていると、だんだんと入り口に近付いていく。だけどその途中で魔法が足を掠め、その場に倒れるように転んでしまった。


「っ……」


 早く行かなきゃ。そう思うけれど、激痛が走り立ち上がるだけでも苦しい。
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