再召喚され全てを失った元聖女は、麗しの騎士団長様の溺愛で絶望から立ち上がる。
「……だから言ったでしょう。無駄だって。そもそもあなたは入り口にすらたどり着けないんですから」

「……そんなのわからないって、何度も言ってるでしょ」


 ゆっくりと歩いてくるカイエン様は、髪の毛をかきあげてため息をつく。その隙を見て、足元に落ちていた魔石を一つ思い切りカイエン様に向かって投げた。


「っ……」


 油断していたのだろう、魔石が頬に当たり微かに血が垂れる。それを手で拭って確認してから、カイエン様はじろりと私を睨みつけた。

 その瞳の奥には憎悪の塊があり、背筋が凍りそうなほどに嫌なものが這い上がってくる。


「油断してる場合ですか? 私を殺すんでしょ?」

「……えぇ。そのつもりです」


 もっと煽れ。もっと煽って、カイエン様を怒らせるんだ。

 炎の魔法では飽き足らず、今度は風の魔法が飛んでくる。


「ひっ……!?」


 鋭い刃のような風が押し寄せ、私の頬に傷を作った。

 ポタポタと流れ落ちる血。手も足も顔も、全部が痛くて熱い。気を抜いたら、今にも倒れてしまいそうだ。

 だけど、ここで諦めるわけにはいかないから。

 足に力を入れて、またその場から駆け出す。


「だから無駄だって言ってんだろ!」


 連続で放たれる攻撃。それを必死で避けると、壁の魔石の塊が落ちてカイエン様の前を塞ぐ。しかし、カイエン様はその塊ごと炎で爆破してしまった。


「……あなたの考えはわかっています。ここの魔石は炎に弱い。私の魔法により壁が崩れて洞窟ごと壊れることを望んでいるのでしょう?」

「っ……」

「でも、そう簡単にはいきませんよ」


 私の考えた作戦なんてお見通し。そんなのわかってる。だけど、今はそんなバレバレの作戦に縋り付くしかない。


「……硬い割に熱に弱くて脆い。そんな魔石を一体どうやって瘴気を生み出す兵器にしたんですか?」

「それはあなたには関係のないことだ」

「いいじゃないですか。どうせ殺すつもりなら、私にも教えてくださいよ」

「……本当、あなたも懲りないですね!」


 また飛んでくる攻撃。それを避けて、砕ける魔石を見つめる。


「ほら、砕けてますよ? いいんですか?」

「問題ありません。いくら内側から攻撃したって、山は広い。魔石はこの山全体に広がっている。無駄なんですよ!」

「……本当にそうですか?」

「……なに?」

「本当に、これが無駄なことだと思ってるんですか?」


 問うと、カイエン様に一瞬の隙ができ私はまた入り口に向かって走り出す。


「くそっ……」


 そのまま数分走ると、ようやく入り口が見えて来た。その向こうには洞窟の外が見えており、目を覚ましたらしいロード様とセイロン様の姿が見える。


「ロード様! セイロン様!」


 向こうからは私の姿は見えないのだろう。だけど、声は聞こえるのか二人がこちらを振り向いた。
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