【番外編集】鷹宮先輩、ズルいです 〜泣き顔を拾われたら、極甘上司に溺愛されました〜

トライアングラーたちの恋の聖戦

あたしの中で、「璋さんのお誕生日」という一大イベントを終えて、安堵したのも束の間。

「クリスマスでしたね……」

「まぁ、平日だし、独り身のあたしには関係ないわ……」

師走も残り僅か、仕事納めが近づいてきた今日。
取引先からの帰り道を、雪乃先輩と歩く。
 
視界の端で揺れるイルミネーション。
恋人たちで盛り上がるイベントに、街も、そして冬の冷たい空気さえも色めき立っているようだった。 

「ほーりーは……ってどうせアイツのことだから、夜景の見えるレストランとかそつなく用意してたんでしょ?」

(さすが雪乃先輩……、その通りです)   

クリスマスイブは、璋さんが夜景の見えるレストランを予約してくれてた。
……のですが、璋さん、残業確定になり、前日キャンセルに。

『友人のところとはいえ、悪いことしたな……今度詫び入れとく』

そう話していた。     
    
「で、ほーりーたちは仕切り直しで、今日!いちゃこらするわけね」
 
「雪乃先輩……酔ってます?」

(珍しい絡みなのと……なんだろ荒んでる?)
 
「あたしも……もう報われたい……独り身はやだぁぁ……三十路こわいぃぃ」
 
(南実くん!チャンスだよ!)

独り身という確定情報をゲットし、心の中の南実くんにガッツポーズで伝えた。
 
「よし、きめた!今日仕事終わりにクリパしましょ!」 
 
「え?」
 
「ほーりーと和巳と……仕方ないわ……璋も呼んであげるか」
 
「雪乃先輩……??」
 
「場所は璋ん家でいいでしょ」
 
本人たちの預かり知らないところで、話がさくさく進んでいく。
ちょうど外回りから戻った真鍋さんと南実くんに、ロビーでバッタリ出くわした。

「和巳、今日クリパするわよ!お酒とつまみを持ち寄って、璋ん家に集合ね!」
 
「は?俺に予定があったら、どうするんだ?」
 
「無いから誘ってるんでしょ?今日クリスマスだもの」
 
真鍋さんは眉間にシワを寄せ、深いため息をつく。 
  
「璋はなんて?」
 
「聞いてないわよ、ほーりーがいいって言ってるんだから大丈夫でしょ。あ、松原も来る?」
 
南実くんに詳細を説明している雪乃先輩を尻目に、真鍋さんがあたしに囁く。
 
「堀川もお疲れ……あいつなんかあった?」
 
「いえ……特に何もないと思うんですが……」 
 
「そうか。……堀川、嫌ならちゃんと断れよ、璋と付き合って初のクリスマスだろ?」
 
真鍋さんのさりげない心遣いに、胸がほっこりする。
 
「イヤじゃないですよ、クリパとか学生以来で、ちょっと楽しみです」
 
「……それなら、璋も納得して参加するか。あいつ、お前を溺愛してるから」                

改めて人から「溺愛」と言われると、大げさに思える。
どう答えようか迷っていると、雪乃先輩がスマホを操作していた。

「ちょっと璋にメッセするわ……「今日クリパしたいから、家行くわ」……と」

暫くして、ピコンと音がなる。   
 
​「ほら、璋から返信きたわ。……って、はぁ!?」
 
​雪乃先輩がスマホを掲げて絶叫する。
 
画面には、
『無理。家で寝る』
という、絵文字もなく清々しいほどに冷淡な一文。
 
​「冷たっ! 秒で断られたんだけど! 独り身への情も何もないわけ!?」
 
「あはは……。じゃあ、あたしも一応送ってみますね」
 
​おそるおそる、あたしは
『今日、みんなでクリパしてもいいですか?』
と送った。
 
その瞬間。
 
ピコーン!
 
通知音が鳴り響く。
まだ、送信ボタンから指を離したばかりなのに。
 
「え、もう返信……?」
 
画面を開くと、そこには雪乃先輩への氷点下の態度が嘘のような、熱を孕んだ言葉が並んでいた。
 
​『葵がいいならええよ。
何買っていけばいい?
早く会いたい』
 
​「……ちょっと、見せて。……はぁぁぁ!?」
 
雪乃先輩の叫び声がロビーに響き渡る。
 
​「『ええよ』だけならまだしも、『早く会いたい』!? どの口が言ってるのよ、あの仕事の鬼が!」
 
「璋さん、分かりやすすぎますね……」
 
あたしの顔は、冬の寒さも忘れるくらい真っ赤に染まった。
  
​真鍋さんが呆れたように肩をすくめ、南実くんも「さすが鷹宮主任、ブレないっすね……」と苦笑いしている。

「ロビーでうるさいぞ、お前たち」

一瞬で場を静まらせた低い声。 
誰かなんて、わかりすぎるくらい、わかる。

「げっ……出たー……囲い込み溺愛男ー」

「いい歳してロビーで騒ぐな、迷惑だろ。フロアへ戻れ」

璋さんも外出先から戻ったようで。
外の寒さ以上の、厳しい温度の声音で、あたしたちをエレベーターへ向かわせる。

すると璋さんが後ろからそっと、あたしの耳元に唇を寄せる。
 
「……外であんなん言うてもうたんやから、夜、手加減せぇへんで。俺に、溺愛される覚悟しぃや」
 
熱い吐息が耳朶をかすめ、低い声が背筋まで痺れさせる。
彼はそれだけ言い残すと、何事もなかったかのような冷徹な上司の顔で「乗るぞ」とみんなを促した。   
 
​(……どうしよう、心臓の音がうるさすぎて倒れそう)
 
​赤く火照って緩んだ顔をマフラーに隠して、あたしは彼らの後を追った。        
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