【番外編集】鷹宮先輩、ズルいです 〜泣き顔を拾われたら、極甘上司に溺愛されました〜
終業後、男性陣はお酒などの飲み物を、女性陣は食べ物を買い込んで、最寄駅で落ち合った。
そのまま、マンションがある道を皆で歩いていく。
見えてきたゲートに、雪乃先輩たちが少したじろぐ。
(あれ?……雪乃先輩たちは初めてなのかな?)
予想外の反応に、あたしは疑問に思った。
エントランスをぬけて、コンシェルジュがよんでくれたエレベーターに乗り込む。
すると、南実くんがぷはっと息を吐く。
「……ひえぇ、なんですかあの大理石の床。鏡みたいにピカピカすぎて、俺、歩いて良かったんですか……?」
エレベーターに乗り込んだ瞬間、南実くんが情けない声を上げて肩をすくめる。
「わかる! あたしも最初に来たとき、同じこと思ったもん。……足、すくみそうになるよね」
あたしが笑って返すと、隣にいた雪乃先輩が、さっきから黙ってスマホをいじっていた璋さんを横目で睨んだ。
「へぇ……『最初』ね。あんた、ここに来たばっかりのほーりーに、そんな圧かけてたわけ?」
「……別に。俺は普通にしてただけや」
璋さんは素っ気なく答えるけど、あたしと視線が合った瞬間、ふっと口角を上げる。
――『今はもう、慣れたやろ?』
声にならないその瞳の温度に、あたしの胸がトクンと跳ねた。
部屋の前に着くと、両手に大量に買い込んだ袋を下げた璋さんが、顎で自分のポケットを指した。
「……葵、悪いけどカードキー取って。右のポケットにあるし」
「あ、はい。……あ、でも、あたしので開けますね」
そう言って、あたしが自分のカバンからごく自然にカードキーを取り出した瞬間。
廊下の空気が、一瞬で凍りついた。
「…………は?」
雪乃先輩の、珍しく地を這うような声。
「ほーりー。今、あんたのカバンから出てきたの……何?」
「え? ……えっと、このお家の、カードキーですけど……」
あたしが『ピッ』と手慣れた動作で解錠すると、重厚なドアがカチャと開く。
「……う、嘘でしょ!? あの鉄壁の璋が、合鍵!? しかもそんな、家の鍵と一緒にキーケースに入れて……完全に『家族』の扱いじゃない!!」
雪乃先輩が頭を抱えて悶え始め、南実くんは「えええ……」と口を開けたままフリーズしている。
「……うるさいな。荷物重いねん、早よ入れ」
璋さんは平然とした顔で、凍りついた面々を無視して中へ入っていく。
でも、あたしの横を通り過ぎる瞬間、誰にも見えない角度で、空いた小指があたしの手に一瞬だけ触れた。
『――ようできたな』
そんな風に褒められた気がして、あたしの心臓は、甘い温度に染まっていった。
リビングに入った途端、雪乃先輩はソファに倒れ込みながらクッションを叩いた。
「信じらんない!あの璋がこんなに心許してるなんて……ほーりー、でかした!」
買ってきたおつまみを器用に並べていた璋さんが、冷めた目で雪乃先輩を一瞥する。
「……雪乃、今日のお前変やで。どうしてん、情緒不安定か」
「あんたのせいでしょーが! この独占欲の塊!」
「うるさいな……」
璋さんは心底面倒そうに溜息をつくと、キッチンで静かにお酒を分けていた真鍋さんに視線を送った。
「……和巳、こいつどうにかせぇよ。俺、葵と準備するから」
「……はぁ? なんで俺が。……おい雪乃も手伝え。見ろ、松原を」
真鍋さんが、ソファと一体化してる雪乃先輩を引っ張り上げる。
ローテーブルに運んでいく南実くんを手伝うように、指示を出した。
***
おつまみや料理も出揃い、
それぞれ自分好みのお酒を手に取り、ローテーブルを囲む。
「じゃ、みんな、Merry Christmas!!」
「メリークリスマス!!」
乾杯の音頭で、カチンとグラスが合わさる。
雪乃先輩と真鍋さんが、ビール片手に部屋を見渡す。
「しっかしまぁー……想像以上のタマワン住まいね~」
「え?……雪乃先輩、璋さん家は初めてなんですか?」
「そうよ?和巳もでしょ?」
「あぁ、俺も初めてだな」
「璋、ここに彼女連れてきたことないでしょ?」
「せやな、葵だけやな」
「しれっと惚気るとか、腹立つ~!」
「お前が聞いて来るからやろ……和巳何とかせぇよ」
「暫くは好きにさせとけよ、いつものことだから」
「ほんま、はよ飲んで食って帰れよ……葵との時間が減る」
「こいつ、今まで適当な恋愛しかしてこなかったくせに!不公平すぎる!」
同期で盛り上がりをみせているのは、あたしたちも同じで。
「葵ちゃん、鷹宮主任との生活にはなれた?」
「うん、やっとこの家の凄さにも、怯まなくはなった……」
「葵ちゃん…………前にも言ったけど、俺は葵ちゃんの味方だからね」
「ありがとう南実くん、あたしもだよ……雪乃先輩とのこと応援してる!」
「んんっ……葵ちゃんっ!」
南実くんが誤魔化すかのように、咳払いをした。
「そういえば、鷹宮主任……」
ビールを片手に、南実くんが意を決したように璋さんを見つめた。
「俺、新人研修のとき、葵ちゃんと同じ関西支社だったんっすよ。受け持ちは真鍋さんでしたけど……主任、俺のこと覚えてますか?」
期待に満ちた南実くんの視線。
璋さんは、買ってきた生ハムを無造作に口へ運ぶと、一ミリの迷いもなく即答した。
「すまん、全く覚えてへんわ」
「……っ!! 一回だけですが、でもガッツリ指導受けたんですけどね……」
膝から崩れ落ちる南実くんの横で、真鍋さんが「俺や雪乃とは違って、こいつは仕事に関係ない男の顔は覚えねぇんだよ」と追い打ちをかける。
雪乃先輩が「ほんっと、冷たい男よねぇ」と笑う中、璋さんがふい、とあたしの方を見た。
「……葵のことは、研修のときから目立ってたから覚えてんで」
「え?! あたしのこと、そんな前から……?」
驚くあたしに、璋さんは意地悪く口角を上げる。
「あんなに必死に資料抱えて……ちょこまかと走って。それに顔真っ赤にして頑張ってたしな。なぁ、雪乃?」
「そうよ!ほーりーは『あの子、根性ある』ってみんな褒めてたわよ、ま、一番はあたしだけどね」
雪乃さんがぎゅうっと抱きしめてくれた。
「雪乃先輩っ」とあたしも嬉しくて抱きしめかえす。
(……璋さん、そんな前から、見ててくれたんだ……)
南実くんの「覚えられてない悲しみ」と、あたしの「覚えられていた喜び」。
その残酷なまでの差に、胸の奥がキュンと甘く疼いた。
「雪乃、離れろや、くっつきすぎやろ」
「女同士のハグに嫉妬しないでくださーい、みっともないわぁ~」
「松原、俺はお前のことデキる後輩だと思ってるからな」
「真鍋さん…………」
真鍋さんが南実くんの肩を軽く叩き、慰めている。
研修時代の思い出話や、今のプロジェクトの苦労話。そんな話題に花を咲かせ、宴はさらに盛り上がっていった。
(どうにかして南実くんと雪乃先輩の距離が縮まってくれたら……)
すると、どこか冷めた、でも複雑な眼差しで見つめている真鍋さん。
「……堀川、お前、本当にお人好しだな」
ぽつりと呟いて、ビールを煽る。
その視線は、南実くんではなく、酔ってくだを巻く雪乃先輩に向けられていた。
(今のどういう意味なんだろう……)
雪乃先輩を見ると、「クリぼっちは嫌すぎる……」とまたもクッションに突っ伏している。
「雪乃先輩! 元気出してください、南実くんが美味しいおつまみ選んでくれたんですよ!」
「 ほら、南実くん、どうぞ!」
真鍋さんの事が気になりつつも、必死に南実くんを雪乃先輩の隣へ押しやる。
(今がチャンスだよ! 頑張って!)
心の中で熱いエールを送るあたしの肩を、背後から大きな手がぐいっと引き寄せた。
「……葵。松原と距離、近すぎへんか」
低く、少しだけ不機嫌そうな璋さんの声。
「あ、すみません! でも南実くん、雪乃先輩のこと……っ」
言いかけて口を押さえるあたしを見て、璋さんは一瞬、目を細めた。
雪乃先輩にタジタジになりながらも必死にアプローチしている南実くんと、それを全く相手にせず「和巳ー! ビールもう一本!」と叫んでいる雪乃先輩。
璋さんは全てを察したように、ふっと口角を緩めた。
(……なるほどな。松原が雪乃を好きなんやな、で、葵は応援していると)
そんな風に言ってるみたいで、あたしは頷いた。
「…………ふはっ」
「? 璋さん、何笑ってるんですか?」
不思議そうに見上げてくるあたしの頬を、璋さんが人差し指でツンと突つく。
「いや? 葵が一生懸命すぎて、おもろいなぁと思って。……ええよ、応援したげ」
そう言って、あたしの腰を引き寄せる手の力が強くなる。
さっきまでの嫉妬心はどこへやら。
余裕たっぷりの笑みを浮かべる璋さんの瞳には、あたしへの「極甘な独占欲」だけが溢れていた。
「あ、ビールなくなったわ……」
「取ってきますね」
「いいわよ、ほーりーは座ってなさい」
「あ、俺も取りにいきます」
立ち上がった雪乃先輩に、南実くんもついていく。
あたしは南実くんの邪魔をしないように座ってることにした。
雪乃先輩と南実くんがキッチンへ消えた後、リビングにはあたしと璋さん、そして真鍋さんの三人が残された。
真鍋さんがふっと息を吐き、璋さんの腰に回された手を見てニヤリと笑う。
「……璋、お前、堂々と人前でそんな顔するようになったんだな」
「……なんやねん、文句あんのか」
「いや? 昔のお前なら、部屋に人を呼ぶなんて考えられなかったからな。」
「……堀川、こいつ、お前に見せてる顔が全部だと思うなよ。相当、溜め込んでるからな」
真鍋さんの言葉に、璋さんは「余計なこと言わんでええねん」とあたしの肩を抱き寄せる力を強めた。
その頃、キッチンでは。
「主任の家…すごいですね」
「まぁね。あの人、ちょっと家柄いいのよ」
「やっぱり……」
「でもね」
「ほーりーがいつか璋の家の問題にぶつかったら
……その時は話聞いてあげて」
「……はい」
雪乃先輩と南実くんが、そんな会話をしていたことなど気付いてなくて。
あたしは、二人の間に少しでもクリスマスらしい雰囲気になることを期待していた。
そのまま、マンションがある道を皆で歩いていく。
見えてきたゲートに、雪乃先輩たちが少したじろぐ。
(あれ?……雪乃先輩たちは初めてなのかな?)
予想外の反応に、あたしは疑問に思った。
エントランスをぬけて、コンシェルジュがよんでくれたエレベーターに乗り込む。
すると、南実くんがぷはっと息を吐く。
「……ひえぇ、なんですかあの大理石の床。鏡みたいにピカピカすぎて、俺、歩いて良かったんですか……?」
エレベーターに乗り込んだ瞬間、南実くんが情けない声を上げて肩をすくめる。
「わかる! あたしも最初に来たとき、同じこと思ったもん。……足、すくみそうになるよね」
あたしが笑って返すと、隣にいた雪乃先輩が、さっきから黙ってスマホをいじっていた璋さんを横目で睨んだ。
「へぇ……『最初』ね。あんた、ここに来たばっかりのほーりーに、そんな圧かけてたわけ?」
「……別に。俺は普通にしてただけや」
璋さんは素っ気なく答えるけど、あたしと視線が合った瞬間、ふっと口角を上げる。
――『今はもう、慣れたやろ?』
声にならないその瞳の温度に、あたしの胸がトクンと跳ねた。
部屋の前に着くと、両手に大量に買い込んだ袋を下げた璋さんが、顎で自分のポケットを指した。
「……葵、悪いけどカードキー取って。右のポケットにあるし」
「あ、はい。……あ、でも、あたしので開けますね」
そう言って、あたしが自分のカバンからごく自然にカードキーを取り出した瞬間。
廊下の空気が、一瞬で凍りついた。
「…………は?」
雪乃先輩の、珍しく地を這うような声。
「ほーりー。今、あんたのカバンから出てきたの……何?」
「え? ……えっと、このお家の、カードキーですけど……」
あたしが『ピッ』と手慣れた動作で解錠すると、重厚なドアがカチャと開く。
「……う、嘘でしょ!? あの鉄壁の璋が、合鍵!? しかもそんな、家の鍵と一緒にキーケースに入れて……完全に『家族』の扱いじゃない!!」
雪乃先輩が頭を抱えて悶え始め、南実くんは「えええ……」と口を開けたままフリーズしている。
「……うるさいな。荷物重いねん、早よ入れ」
璋さんは平然とした顔で、凍りついた面々を無視して中へ入っていく。
でも、あたしの横を通り過ぎる瞬間、誰にも見えない角度で、空いた小指があたしの手に一瞬だけ触れた。
『――ようできたな』
そんな風に褒められた気がして、あたしの心臓は、甘い温度に染まっていった。
リビングに入った途端、雪乃先輩はソファに倒れ込みながらクッションを叩いた。
「信じらんない!あの璋がこんなに心許してるなんて……ほーりー、でかした!」
買ってきたおつまみを器用に並べていた璋さんが、冷めた目で雪乃先輩を一瞥する。
「……雪乃、今日のお前変やで。どうしてん、情緒不安定か」
「あんたのせいでしょーが! この独占欲の塊!」
「うるさいな……」
璋さんは心底面倒そうに溜息をつくと、キッチンで静かにお酒を分けていた真鍋さんに視線を送った。
「……和巳、こいつどうにかせぇよ。俺、葵と準備するから」
「……はぁ? なんで俺が。……おい雪乃も手伝え。見ろ、松原を」
真鍋さんが、ソファと一体化してる雪乃先輩を引っ張り上げる。
ローテーブルに運んでいく南実くんを手伝うように、指示を出した。
***
おつまみや料理も出揃い、
それぞれ自分好みのお酒を手に取り、ローテーブルを囲む。
「じゃ、みんな、Merry Christmas!!」
「メリークリスマス!!」
乾杯の音頭で、カチンとグラスが合わさる。
雪乃先輩と真鍋さんが、ビール片手に部屋を見渡す。
「しっかしまぁー……想像以上のタマワン住まいね~」
「え?……雪乃先輩、璋さん家は初めてなんですか?」
「そうよ?和巳もでしょ?」
「あぁ、俺も初めてだな」
「璋、ここに彼女連れてきたことないでしょ?」
「せやな、葵だけやな」
「しれっと惚気るとか、腹立つ~!」
「お前が聞いて来るからやろ……和巳何とかせぇよ」
「暫くは好きにさせとけよ、いつものことだから」
「ほんま、はよ飲んで食って帰れよ……葵との時間が減る」
「こいつ、今まで適当な恋愛しかしてこなかったくせに!不公平すぎる!」
同期で盛り上がりをみせているのは、あたしたちも同じで。
「葵ちゃん、鷹宮主任との生活にはなれた?」
「うん、やっとこの家の凄さにも、怯まなくはなった……」
「葵ちゃん…………前にも言ったけど、俺は葵ちゃんの味方だからね」
「ありがとう南実くん、あたしもだよ……雪乃先輩とのこと応援してる!」
「んんっ……葵ちゃんっ!」
南実くんが誤魔化すかのように、咳払いをした。
「そういえば、鷹宮主任……」
ビールを片手に、南実くんが意を決したように璋さんを見つめた。
「俺、新人研修のとき、葵ちゃんと同じ関西支社だったんっすよ。受け持ちは真鍋さんでしたけど……主任、俺のこと覚えてますか?」
期待に満ちた南実くんの視線。
璋さんは、買ってきた生ハムを無造作に口へ運ぶと、一ミリの迷いもなく即答した。
「すまん、全く覚えてへんわ」
「……っ!! 一回だけですが、でもガッツリ指導受けたんですけどね……」
膝から崩れ落ちる南実くんの横で、真鍋さんが「俺や雪乃とは違って、こいつは仕事に関係ない男の顔は覚えねぇんだよ」と追い打ちをかける。
雪乃先輩が「ほんっと、冷たい男よねぇ」と笑う中、璋さんがふい、とあたしの方を見た。
「……葵のことは、研修のときから目立ってたから覚えてんで」
「え?! あたしのこと、そんな前から……?」
驚くあたしに、璋さんは意地悪く口角を上げる。
「あんなに必死に資料抱えて……ちょこまかと走って。それに顔真っ赤にして頑張ってたしな。なぁ、雪乃?」
「そうよ!ほーりーは『あの子、根性ある』ってみんな褒めてたわよ、ま、一番はあたしだけどね」
雪乃さんがぎゅうっと抱きしめてくれた。
「雪乃先輩っ」とあたしも嬉しくて抱きしめかえす。
(……璋さん、そんな前から、見ててくれたんだ……)
南実くんの「覚えられてない悲しみ」と、あたしの「覚えられていた喜び」。
その残酷なまでの差に、胸の奥がキュンと甘く疼いた。
「雪乃、離れろや、くっつきすぎやろ」
「女同士のハグに嫉妬しないでくださーい、みっともないわぁ~」
「松原、俺はお前のことデキる後輩だと思ってるからな」
「真鍋さん…………」
真鍋さんが南実くんの肩を軽く叩き、慰めている。
研修時代の思い出話や、今のプロジェクトの苦労話。そんな話題に花を咲かせ、宴はさらに盛り上がっていった。
(どうにかして南実くんと雪乃先輩の距離が縮まってくれたら……)
すると、どこか冷めた、でも複雑な眼差しで見つめている真鍋さん。
「……堀川、お前、本当にお人好しだな」
ぽつりと呟いて、ビールを煽る。
その視線は、南実くんではなく、酔ってくだを巻く雪乃先輩に向けられていた。
(今のどういう意味なんだろう……)
雪乃先輩を見ると、「クリぼっちは嫌すぎる……」とまたもクッションに突っ伏している。
「雪乃先輩! 元気出してください、南実くんが美味しいおつまみ選んでくれたんですよ!」
「 ほら、南実くん、どうぞ!」
真鍋さんの事が気になりつつも、必死に南実くんを雪乃先輩の隣へ押しやる。
(今がチャンスだよ! 頑張って!)
心の中で熱いエールを送るあたしの肩を、背後から大きな手がぐいっと引き寄せた。
「……葵。松原と距離、近すぎへんか」
低く、少しだけ不機嫌そうな璋さんの声。
「あ、すみません! でも南実くん、雪乃先輩のこと……っ」
言いかけて口を押さえるあたしを見て、璋さんは一瞬、目を細めた。
雪乃先輩にタジタジになりながらも必死にアプローチしている南実くんと、それを全く相手にせず「和巳ー! ビールもう一本!」と叫んでいる雪乃先輩。
璋さんは全てを察したように、ふっと口角を緩めた。
(……なるほどな。松原が雪乃を好きなんやな、で、葵は応援していると)
そんな風に言ってるみたいで、あたしは頷いた。
「…………ふはっ」
「? 璋さん、何笑ってるんですか?」
不思議そうに見上げてくるあたしの頬を、璋さんが人差し指でツンと突つく。
「いや? 葵が一生懸命すぎて、おもろいなぁと思って。……ええよ、応援したげ」
そう言って、あたしの腰を引き寄せる手の力が強くなる。
さっきまでの嫉妬心はどこへやら。
余裕たっぷりの笑みを浮かべる璋さんの瞳には、あたしへの「極甘な独占欲」だけが溢れていた。
「あ、ビールなくなったわ……」
「取ってきますね」
「いいわよ、ほーりーは座ってなさい」
「あ、俺も取りにいきます」
立ち上がった雪乃先輩に、南実くんもついていく。
あたしは南実くんの邪魔をしないように座ってることにした。
雪乃先輩と南実くんがキッチンへ消えた後、リビングにはあたしと璋さん、そして真鍋さんの三人が残された。
真鍋さんがふっと息を吐き、璋さんの腰に回された手を見てニヤリと笑う。
「……璋、お前、堂々と人前でそんな顔するようになったんだな」
「……なんやねん、文句あんのか」
「いや? 昔のお前なら、部屋に人を呼ぶなんて考えられなかったからな。」
「……堀川、こいつ、お前に見せてる顔が全部だと思うなよ。相当、溜め込んでるからな」
真鍋さんの言葉に、璋さんは「余計なこと言わんでええねん」とあたしの肩を抱き寄せる力を強めた。
その頃、キッチンでは。
「主任の家…すごいですね」
「まぁね。あの人、ちょっと家柄いいのよ」
「やっぱり……」
「でもね」
「ほーりーがいつか璋の家の問題にぶつかったら
……その時は話聞いてあげて」
「……はい」
雪乃先輩と南実くんが、そんな会話をしていたことなど気付いてなくて。
あたしは、二人の間に少しでもクリスマスらしい雰囲気になることを期待していた。