アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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会場は、軽井沢の森の中に佇む小さなホールだった。
ヨーロッパの荘厳な建物とは違い、木の温もりのあるこぢんまりとした空間だ。それでも集まった聴衆の熱気は本物で、開演前から期待感が漂っていた。
今回、関係者席と呼ばれるものがなかったため、舞台袖のところにスタッフが椅子を用意してくれた。案内された紬希が薄暗い場所にある一脚の椅子に座ると、舞台がすぐそこに見える。
――こんなに近くで見られるなんて……!
やがて、照明が落ち、奏の名前がアナウンスされると同時に彼が舞台に現れる。ヨーロッパ公演のときはフォーマルな格好だったが、今日はそれよりもややくだけた半そでシャツにベストという若々しい姿だ。彼は一礼して悠然とピアノの椅子へ腰かけた。
正面にある客席からは見えない角度ということもあり、奏の横顔がそのまま見える。
紬希が初めて彼の演奏を目の当たりにしたあの夜のコンサートとも、ヨーロッパ公演で大成功を収めた大舞台とも違う。自然で、優しさが溢れている空間だった。
小さな空間に、奏の音が満ちていく。
――音が、近い。