アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

「……行儀が悪い」

 淡々と言いながら、奏は自分の指についたクリームを舐めた。そっちの方が行儀が悪いのでは? 紬希は彼の思いがけない行動に硬直する。

 ――い、今のは……?

 顔が、熱い。それに……心臓にも悪い。

「どうした」
「な、なんでもないです」

 奏は少し首を傾げて、自分のソフトクリームに戻った。
 対する紬希は自分の心臓の音がうるさくて、ソフトクリームの味がわからなくなってしまった。

 ――もう、奏さんに振り回されっぱなし。

 ソフトクリームを食べてから通り沿いのカフェでランチを食べ、観光地としても名高い雲場池へ向かう。
 すでに奏の手にはショップで購入した土産物の紙袋が複数かかっている。紬希がショップを目で追う都度「買ってやる」と有無を言わさず服や雑貨や菓子を買い込んだ結果だ。どうしてそこまでするのだろうと思いながらも、紬希は彼の気まぐれな善意に甘えていた。
 そんなわけで長い散策の後、ようやく雲場池に着いたのは午後の光が柔らかくなった頃だった。
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