アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「食べたいか」
奏が、店を見ながら言う。
「……いいんですか」
「聞いているんだ」
「じゃあ、食べます」
言うや否や、奏がソフトクリームを二本買って、一本を紬希に差し出してきた。彼が選んだのはシンプルな八ヶ岳の牛乳で作られたバニラソフトクリームだ。
二人並んで、木陰のベンチに座る。
ミルクの甘い香りが緑の風に乗って鼻腔をくすぐってくる。
――こうしていると……なんだか、ふつうの恋人同士みたい。
そう思いながら、ソフトクリームを一口食べる。冷たくて、甘くて、口のなかでゆっくりとろけていく。
もう一口食べようとして、うまく食べられなかった。
「……っ」
クリームが、口の端についてしまった。
どうしよう、と思う間もなく奏の指が、そっと口元にふれる。
彼の長い指が、クリームを拭っている。