アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

「……どう、でしたか?」
「よかった」

 はぁはぁと息を荒げる紬希を労いながら、奏はそれだけ口にして、彼女を背後から抱きしめる。

「! かな……」
「俺たちの関係はもう、前奏を過ぎただろう?」

 耳元で甘く囁く彼の言葉で、紬希は昨晩のことを思い出し、頬を紅潮させる。
 契約だと割り切っていたはずなのに――ヴェルレーヌの詩の一節『幸せを決して信じていない』、はずだった紬希の心が騒いでいる。
 自分は彼に、恋してしまった。許されるものなら、前奏曲のその先にともに進みたいのだと、確信してしまった。
 彼は紬希の言葉を封じるように、キスをする。教会の、ピアノの椅子に座ったまま。身体の奥が熱くなる。
 こわいくらいに、しあわせで。
 紬希は今だけだという免罪符を胸に刻んで、彼に抱き締められたまま繰り返される口づけに溺れていく――……。
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