アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
――俺たちの関係はもう、前奏を過ぎただろう?
教会を出てから、奏はずっとその言葉を反芻していた。
なぜ、あんなことを言ったのか……言いたくて言ったわけではない。ただ、口から出ていた。
彼女が演奏を終えて、充足した顔で笑ったとき。
あの笑顔を見た瞬間。奏は無意識のうちに言葉にしてしまったのだ。
――らしくない。
奏は、帰りの新幹線のなかで、自分の指先を見つめる。
ピアニストの指。何十年も鍛えてきた指。紬希の頬にふれた、あの指。
昨夜から、何度も紬希にふれている。契約の範囲外だと分かっているのに、彼女が求めてきたからと心のなかで言い訳をして、彼女を自分のものにした。
これ以上ふれたら戻れなくなる、そう思っても止められなかった。