アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
その日の午後、玄関のチャイムが鳴った。
佐伯が応対に出る。しばらくして、緊張した顔で戻ってきた。
「奥様……藤原撫子様がいらっしゃっています」
紬希は、その名前に息を呑む。
応接間に向かうと、撫子が立っていた。
パーティーのときの華やかなドレスではなく、今日は落ち着いたオフホワイトの装いだ。それでも、あのパーティーで感じた危うい印象は変わらない。
「奥様。奏さんにお会いしたいのですが」
優雅な仕草とともに紡がれた声は穏やかだった。が、その目は笑っていない。
「あいにく、奏は仕事中です」
「では、待たせていただけますか」
紬希は少し考えて、「少々お待ちください」と言って奏に連絡を入れる。
しばらくして、奏が書斎から降りてきた。
撫子を見た瞬間、奏の表情が固まる。