アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
奏は、カップを置いた。
紬希がいなくなってから、屋敷のあちこちに痕跡を見つけてはため息をつく。
ドレスルームに残った彼女のために用意したナイトドレスの数々。彼女がパリで着たヴァイオレットの大人びたドレスに、ウィーンで着たモスグリーンの上質なドレス、ロンドンで着たのは現地で奏が購入したブラックベルベッドの艶やかなドレスだ。
そして軽井沢で買った土産物の紙袋。なかにはカーディガンやパンプスがそのまま残されている。
洗面台の隅に置き忘れたヘアピンにヘアゴム。洗顔料をはじめとした化粧品にメイクアップ用品まで。
持ち帰るのを忘れたのか、意図的に残していったのかわからない……が。
どちらにしても、奏はもう、確かめる術を持っていなかった。