アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「泣くな」
「泣いていません」
「その状態を――」
「泣いていません」
奏は、小さく笑った。
それから、紬希のあたまに手を置いた。
いつもの、不器用な仕草。
「……ひとりじゃない」
低く、静かな声。
「俺も、そうだ」
紬希は、唇を噛んだ。
泣かないようにしながら、奏の胸に額を当てた。
奏の手が、紬希の背に回る。
ハンカチを奪われ、くい、と顎を持ち上げられ、視線が重なった。
ホールの外では、まだ拍手が続いている。
静かに傾いていく太陽が沈みゆくなか、やがてふたりの影はひとつになる。
あの夜からずっと共鳴していたふたりの薬指には、お揃いのプラチナの輝きが煌めいていた。
――fin.


