アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「……気づいたな」
「はい」
紬希は頬を赤らめながら頷く。
「リスト版の“献呈”ですよね」
「そうだ」
「……シューマンがクララに捧げた曲を、リストが編曲した」
「よく知っているな」
「シューマンが好きなので」
奏は、少し口元を緩めた。
「だから選んだ」
その一言に、紬希は目を見開く。
――だから、選んだ?
「紬希が気づくと思って、選んだんだ」
奏は、紬希の前に立って囁く。
「大勢に聴かせたかった。これが誰のための音かを」
「……奏さん」
胸がきゅっと締め付けられた感覚に陥っていた。頬が濡れていることに気づいた紬希は慌ててハンカチを取り出す。