アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
   * * *


 夕食は、長いテーブルの両端ではなく、奏の提案でテーブルの角を挟んで向かい合う形になった。
 運ばれてくるのはフランス料理。
 前菜のサーモンのテリーヌから始まり、オニオングラタンスープ、魚料理のムニエルと続く。どれも繊細で美しく、紬希が普段口にするものとはかけ離れていたが、緊張で味がよく分からなかった。
 なるべく音を立てないよう、カトラリーの扱いに注視していたこともあり、会話らしい会話は生まれない。
 沈黙が続く。
 奏は食事をしながら、手元の書類に目を通している。紬希の存在など、眼中にないかのように見えた。

 ――それでいい。これが契約なんだから。

 そう自分に言い聞かせていたとき、奏が不意に口を開く。
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