アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
翌朝、紬希は早くに目が覚めた。ふかふかのベッドは気持ちよかったが、慣れるにはまだ時間がかかりそうだった。
カーテンの隙間から、白い光が差し込んでいる。
――まぶしい。
窓を開けると、冷たい空気が頬にふれた。
庭を見下ろすと、白梅や寒桜の花が、昨日よりほんの少し開いているように見えた。
――そうか。春に、なるんだ。
紬希は、その花を見ながら小さく息を吐く。
昨夜のことが、夢だったのか現実だったのか……まだ、うまく整理できていない。奏が弾いていた”月の光”が素晴らしすぎて、思いがけず喋りすぎてしまったきらいがある。初日からこれで大丈夫だっただろうか。契約妻として出しゃばりすぎてしまったかもしれない。今後は気をつけよう……。
でも確かに今朝、紬希はこの屋敷で目が覚めた。
それだけは、まがいもない現実――……。