アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「何言ってるんだ、って感じですけど、えっとですね……奏さんの音を聴いていると、ひとりじゃない気がします」
言ってから、少し恥ずかしくなった。
変なことを言ってしまった自覚はある。なんせこんな夜中に、こんな言葉を勢いのまま伝えてしまったのだから。
それでも奏は何も言わなかった。ただ、鍵盤の上に置いていた手が、わずかに止まっている。
紬希は顔を真っ赤にしたまま「おやすみなさい」と小さく言って、廊下へ戻る。
早足で自室に戻って、ベッドに横になる。
さっきまで眠れなかったのが嘘のように、瞼が重くなってくる。
遠くでまた、ピアノの音が聞こえてきた。
今度は少しだけ――やわらかい音。
それはまるで、紬希のために奏でられた子守唄のようだった。