アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
空港のプライオリティ・パス・ラウンジに人はまばらだった。
一般のターミナルとは切り離された上質な空間で、奏は提供された軽食を黙々と食べている。食事を持たない片手で楽譜を持ち、視線はそこに落としている。紬希が隣に座っても顔を上げることはない。
――相変わらずわたしには興味ないみたい。そりゃそうか、契約上の妻でしかないんだし。
紬希は生クリームがたっぷり入ったコーヒーを一口飲んで、窓の外の滑走路を眺める。
飛行機が一機、ゆっくりと動き始めるのが見えた。
「緊張しているのか」
不意に、隣から声がかかる。
横を向くと、楽譜から目を離さないままの奏がサーモンとアボカドのサンドウィッチを食べていた。指についたクリームチーズをぺろりと舐める姿が妙に艶めかしくてドキドキする。紬希はその仕草から目をそらし、小声で返す。