記憶の中のあなたと、記憶喪失のあなた

12 何度でも、また磨きなおそう。2人で

 それから2週間。海斗(かいと)くんは一度も学校に来なかった。
 治療に専念しているんだと思ったんだけれど、実態はよくわからない。
 ある日、家に帰るとお母さんがわたしに手紙を寄越した。

御園生(みそのう)くんからよ、珍しいわね」

 すぐにわたしは引ったくるように奪って、中に目を通した。また海斗(かいと)くんがいなくなってしまうんじゃないかって、そんな予感がしたんだ。

 内容は、約束をした小学校で待っているというものだった。
 まだ日は落ち切っていない。
 きっと今日も海斗(かいと)くんはそこにいるんだろう。

「ちょっと出かけて来る!」

 わたしは制服のまま駆けだす。後ろでお母さんがぎゃーぎゃー騒いでいたが、言葉なんてひとつも耳に入らなかった。

 一木(いつき)小学校は家から近い。
 走ればすぐに到着していた。
 約束をしたのはテニスコートのすぐそばだ。
 もちろん、本当は敷地に入っちゃいけないんだろう。
 気にせずにわたしはフェンスをよじ登った。

海斗(かいと)くん!」

 近寄れば、同年代の男の子が振り向くのがわかった。

「うっちゃん」

 その一言で、海斗(かいと)くんの記憶が戻ったことを、どうしようもないほど理解する。だって、海斗(かいと)くんはわたしを彩良(さら)と呼んでいたんだから。

 いなくなってしまった痛みと、また会えた喜びが共存している。

「おかえりなさい」

 海斗(かいと)くんは鈍くない。
 それどころか敏感だ。わたしの心情を察してしまったようで、悲しそうに笑っていた。

「人格って言えばいいのかな。当時の性格が全く残っていないわけじゃないんだよ。でも、僕の意識が勝っちゃった。そりゃそうだよね……ごめんね」

「ううん……わたしのほうこそ浮気性でごめんなさい」

 気の迷いだったと弁解することはできない。
 だけれど、どんな海斗(かいと)くんでも好きになったと思う。そこだけは確かなので、許してほしい。

「僕たちを好きになってくれてありがとう」

 海斗(かいと)くんが頭を下げる。
 カチャリとキーホルダーが音を立てた。
 水色の星形。買ったばかりのようで真新しい。
 その不器用さが、わたしの胸を突いた。
 この海斗(かいと)くんだって、比べられないほどわたしにとっては大切だった。

「帰ろっか、もう遅いよ」

 わたしは海斗(かいと)くんに手を伸ばす。
 おずおずと、海斗(かいと)くんも握り返した。
 今の海斗(かいと)くんには、それにふさわしい距離感がある。
 きっと宝箱みたいな恋だった。
 思い返すことしかできないけれど、それでもはっきりと輝いていた。
 今度は1つめの宝箱を大切にしようと思う。
 わたしが海斗(かいと)くんと2回目のちゅーをするのは、それから4か月後。わたしの誕生日に、半ば無理やりプレゼントとしてしてもらった。今わたしたちがどうなっているのかは、わざわざ10年前を振り返ったところから察してほしい。
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