醜い私が美貌の聖女になったら、危険な恋をして国が滅びた。
 徹夜の裁定で疲労しきった顔、不安と恐怖が入り混じった視線。

 夜明けの光が高窓から差し込み、石床に長い影を落としていた。
 その中で、エリシアは歩み去ろうとする一人の背中を呼び止めた。

「セドリック皇子殿下」
 呼びかけられた男は、ぴたりと足を止め、振り返る。
 その動作はあまりに洗練され、感情の入り込む隙がない。

「聖女様。ご挨拶が遅れました。聖女様のご慈悲に感謝を。セドリック・レイディンと申します。以後、お見知りおきを」
 一歩、距離を取ったままの姿勢とあくまで“帝国皇子と聖女”としての立ち位置。
 それを見た瞬間、エリシアの眉間に小さな皺が寄った。

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