死ねない鬼ごっこ

始まりの日

国立天ノ河(あまのがわ)高校は、誰もが知る有名校。
偏差値70の学力を誇る普通科。
有名人が勢揃(せいぞろ)いな芸能科。
毎年コンテストでは金賞等を受賞するパティシエ科。
どの部も毎回優勝で帰ってくるスポーツ科。
賞を受賞するのが当たり前になった技術科
最近できたけど頭のキレる人ばかりなeスポーツ科。
美術館に数多くの作品を出品する美術科。
コンテスト金賞を学校設立当初から受賞し続ける音楽科。
ひたすらに研究し続けるバケモノじみた頭をした人の多い科学科。
計9つの学科で構成される、国内で1番大きな高校。
学力だって申し分ない。

そんな高校の普通科に所属するのが、この私舞良羽海(まいらうみ)だ。
ちなみに学科代表。
銀色の髪、右目が紫で左目が黄色のオッドアイ、美人顔で芸能人と間違えられるほどだ。
そんな私には“いつメン”の親友が5人いる。

「いたいた〜!羽海ちゃんみーっけ!」

前から笑顔で走ってきたのは、パティシエ科所属の室星実璃(むろほしみのり)だ。
そのままの勢いで、抱きついてくる。

「そういうことやってるといつか転ぶよ、実璃」

「その時は羽海ちゃんが助けてくれるから、いいんだもーん!」

実璃は腰まで伸びた銀色の髪に水色のインナー、紫色の丸い瞳と、尖った八重歯が特徴のかわいらしい女の子。
こう見えても毎回コンテストで金賞を受賞するくらいお菓子作りが上手で、パティシエ科の学科代表でもある。

「実璃は飛びつきすぎだって言われてんだよ」

そして後ろからきた4人もいつメンだ。
実璃を私から引きはがしたこの男は、スポーツ科バスケ部所属の八色風磨(やいろふうま)だ。
ツンツンはねた黒髪に、灰色の瞳は気だるけなのが特徴の男の子。

男子の中では私が1番信頼してる奴。
幼稚園の時から一緒にいる幼馴染みだ。

「ほんとほんと。ま、相変わらずだよね〜。元気にしてた?羽海ちゃん」

(じん)…。うん、元気だよ」

その後ろには、久々に顔を合わせた結木迅(ゆうきじん)
迅は雪みたいに真っ白な髪に灰色の横に長い目、あとは犬っぽい。
科学科の学科代表で、この年で病院まで設立した天才だ。
だけど、普段は研究ばっかで引きこもり。
それもあってか周りは近寄らないんだよね。
だから、迅がかわいい物好きだとかそういうのは私たちしか知らない。
親友の特権ってやつ。

「はいはい、久々の再会なのはいいんだけどさ。早く部室いこ〜よ。んで、さっさと鍵閉めよう」

そう呆れた顔で言ったのは、eスポーツ科学科代表の永星柊奈(えぼしひな)だ。
銀色の髪にピンク色の瞳が目立っていて、黒いパーカーを着ている。
eスポーツ科ってのは、まあゲームとかばっからしい。
だけど、選抜された人しか入れないから超頭のいい人ばっか。
そのトップなわけだし、柊奈は頭いいよ。

ちなみに、「鍵を閉める」と言ったがこれはかなり重要なこと。
まあ、理由は後でわかるよ。

それからさっきから喋んない後ろの奴は紹介してなかったね。
あいつは結木碧(ゆうきみどり)
迅の双子の弟。
長い茶髪に染められた髪に灰色の瞳、それからずっと飴を舐めてる。
ピアスが好きらしくて、毎日いろんなのつけてるんだよね。
基本的に無口だけど、女子からの人気はあるよ。
と、私含めこの6人がいつメン。

「柊奈の言う通りだわ。さっさといこ。“ファン”がくる」

それからみんなで早く部室に向かった。
私たちは学科代表っていう接点がある前に、実は幽霊部っていうまあホラー好きの集まりの部活に入ってるんだよね。
メンバーはこの6人。
他は全員拒否してるから、ずーっと人数が増えない。
あ、ちなみに学科代表は生徒会に入るのは絶対だから、そういう繋がりもあるんだけど。
そんなこと説明してるうちに、私たちは幽霊部の部室についた。

「はぁ〜よかった。とりあえず、これで一安心だね」

そう言って迅は部室の鍵を閉める。
その途端、部屋の外からドタドタと足音が聞こえてきた。
「げっ」っと声を出すのを抑えた。
すると、女子生徒の声が聞こえた。

「あー、鍵しまってる。まだ来てないのかな?」

「じゃあ校舎内探しに行こ」

何人かの生徒の足音が遠のいて、ようやくみんな息を吐き出せた。
私たちが、いつもこうやって急いで部室に来る理由はこれ。
自分で言うのもおかしいけど、私たち学年代表組は顔もよくて頭もいいから生徒たちから異様なほど人気を集めているのだ。
ファンクラブなんてものもできちゃって、毎日追われる日々。
散々な目にあってきて昼休みはこうやって部室に逃げてくるんだ。

「そろそろ大丈夫そうだね。じゃ、お昼食べよ」

「お腹空いた〜!」

柊奈の言葉に、疲れたように言う実璃。
私たちは席に座って、それぞれお弁当を出した。
みんなが食べ始めたのを見て、私は話を切り出した。

「ねえ、みんな。この学校の不思議なルールのこと知ってる?」

「ん?ああ、4時44分44秒に入るとなんたらとかいうやつだろ?」

口をもぐもぐさせながらそう言った風磨。

「うん。それのこと。それでさ、今日の夜それ検証しない?なにが起こるか」

私の言葉にいち早く反応したのは、実璃だった。
勢いよく立ち上がり、目を輝かせた。

「めっちゃいいじゃーん!!私賛成!」

他のみんなも賛成してくれて、今夜学校に侵入することが決まった。
さすがに夜の学校に入るのは、いくら部活でも無理だからね。
あ、なんのことかわかんないって?
じゃあ説明してあげるよ。
私たちの学校には「午前4時44分44秒。その時間時だけは校舎内には入るな」っていうルールがあるわけ。
なんでかはわかんないけど、きっとなんかがあるんだよね。
だから、なにが起こるか確かめるってわけ。

でも、この時私たちは知らなかった。
恐ろしいことが起こってしまうことを。

***

今の時刻を確認すると、午前4時20分ちょうど。
私は持っている懐中電灯を前に向けて、みんなの顔を確認した。

「よし、全員集まってるね。行こっか」

私たちは裏門から校内に入り、施錠されない普通科の職員玄関から入っていった。
校舎内はなに一つ音はしないし、真っ暗でなにも見えない。
これ、懐中電灯持ってきてないと詰むやつ。
でも大丈夫。
私たちは前にもこうやって忍び込んだことあるし。

「おい、羽海。はやくいこーぜ」

「ちょっと待って。警備員いないかチェックしてんの」

耳を澄ますけど、なにも聞こえない。
この学校は名門校だから、警備もちゃんとしてる。
だけど無駄に広いから、回るのに時間かかってなかなか出くわさない。

「うん。大丈夫そう」

そうして全員が入ったのを確認して、玄関のドアを閉めた。
噂では4時44分44秒に校舎内にいればいいわけだし、別にやることはない。
後10分くらい待てばいい。

「ね〜、やることないからさ。私、羽海ちゃんの教室行きたい!」

「私も行きたい」

「さんせ〜!」

「俺も」

実璃の提案に柊奈と迅、碧も頷く。
風磨はキョロキョロして話聞いてないけど、まあいいか。
やることないのは事実だもんね。

「おっけ。じゃあ、案内するから着いてきて」

私は5人を連れて自分の教室まで進んで行った。
教室の扉の前までくると、扉を開けて中に入った。
一応閉めておく。

「そういや、この前席替えしたって言ってたな。席どこになったんだ?」

風磨の質問に、私は視線を後ろに移して言った。

「あー、あそこ。1番後ろの窓側」

「えっ、最高じゃん。サボりまくれる席」

柊奈の言葉に、私はクスッと笑う。

「別にサボるために来てないし。って、そろそろ時間だね」

私がチラッと教室の時計を確認すると、時間はもう10秒前に迫っていた。
早いものだ、時間が過ぎていくのは。
そして、私の言葉にみんなが息を呑む。
なにも起きないとわかっていても、なにか起きるんじゃないかという期待を含んだ沈黙。
そして、その時は来た。

「え…」

思わずそんな声をもらすのは、当たり前のことだろう。
だって、時計の針が4時44分44秒から微動だにも動かないのだから。
そして次に瞬きをした瞬間、まるでテレビのチャンネルが変わったように景色が変わった。
ここは、普通科の生徒玄関だ。
いや、こんなこと冷静に考えている場合ではない。

「は?ここ…生徒玄関?さっきまで、うちら自分の教室いたよね?」

「あ、ああ…。なにがどうなってんだ?」

いつも動揺しない柊奈と風磨ですら、動揺を見せている。
なにかが起こっている。
そんなことはみんな感じているのだろう。
私が周囲を見回していると、実璃が言った。

「ね、ねぇ。なんか変な音聞こえない?ずるっ、ずるって…」

そう言われ、私は耳を澄ました。
すると、実璃の言う通りどこか遠くでなにかを引きずる音が聞こえたのだ。
嫌な予感がするのは、私だけなのだろうか。
5人の表情は少しホッとしているように見えた。

「音が聞こえるってことは、誰かいるってことだよね」

迅の言葉に、そっかと心の中で頷いた。
この音は自然に出るものじゃないし、誰かがいるってことだ。
だとしたら、この音はきっと警備員の出している音なのだろう。

「噂はただ瞬間移動できるってだけだったのかな?」

「あー、そうかも。別に大したことなかったね」

私はそう言って、ため息をついた。
なんだ、変なふうに怖がらせないでよ。
それから私は頭をかきながら言った。

「んじゃわかったことだし、帰ろっか」

「そだねー」

柊奈先頭をきって、玄関のドアに向かう。
そしてその取手に手をかけ、ガチャガチャと音を鳴らす。

「おい、いつまで遊んでんだよ」

風磨の声に、柊奈は恐る恐ると言った様子で振り返った。
その顔は恐怖で歪んでいた。

「い、いや…違くて…。開かない…」

「はぁ!?んなわけねぇーだろ。おら、どけ」

柊奈を少し乱暴に退け、同じように取手に手をかけてガチャガチャと音を鳴らすが開かない。
冷静に考えれば、鍵が閉まっているのだろうと思いつくだろう。
けれど、私が確認しても鍵があいていることがわかる。
どうしたものかと考えていると、実璃が私の制服の裾を引っ張っていることに気がつく。
あれ?私たちって、集まった時制服だったっけ?
そんなことを思いながら、私は振り返った。

「どうした?実璃」

「あ…ああ…」

実璃は震えた指を、廊下の奥に向けた。
奥に見えたその影が、私たちに恐怖を植え付ける。
逃げたいのに、足が動かない。
そこにはありえないほどの巨体の“なにか”が立っていたのだ。
ずるっずるっと音を立て向かってくる姿を見つめていると、ボロリとそのなにかの目玉が落ちたのだ。

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

実璃が叫んで走り出した途端、そのバケモノは猛スピードでこちらに向かい——。
グチャッという音と共に潰れた実璃。
その目の焦点は定まらず、たしかに死んでしまったことを悟った。
いったい、なにが起きたんだろう。
なにも理解できず、震えた足がついに体感を保てなくなりその場に座り込んでしまった。
そして、実璃の時と同様にバケモノの腕が振り下ろされる。

その瞬間グチャッと気味の悪い音が耳に残り、私は死んだのだと理解した。
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