死ねない鬼ごっこ

1日目

私は薄暗い部屋で、目を覚ました。
私は思わず横に置いてある時計に視線を移す。
4時44分56秒。
夢の中の時間からわずか12秒しか経っていないところを見ると、さっきまでの出来事が現実なんじゃないかと錯覚する。
そんなわけないのに。

そして、いつのまにか背中が汗で濡れていることと、のどがかわいていることに気がついた。
気持ち悪い。
心の中でそう吐き捨てて、私はベッドから降りた。
いつも通り、机の上にコップが置いてあるのが目に入った。

「はぁ…水入れに行くか」

そうため息をついて、机の上の電気をつけ、コップを手に取った。
妙に重い。
私は不思議に思って、コップの中身を見る。
なんだ、入ってんじゃん。
昨日もこんなことをした気がする、と思いながら入っている水を一気飲みした。
私は空になったコップを置いて、私はベッドに戻ろうとした。
その時に、机の上の本が目に入った。

「なにこれ…黒い…本?」

真っ黒な表紙になぜか惹きつけられた。
記憶にないこの本は、いったいなんなのだろう。
記憶がないといえば、私は今日ベッドに入った記憶もパジャマに着替えた記憶もない。
あの夢が現実だったのではないかと、再びその考えが蘇る。
私は思わずその本を手に取り、いつものようにイスに座って読み始めた。
表紙をめくり、横書きに書かれた文章を読んでいく。

『ようこそ、死の世界へ。
私たちはあなたたちを歓迎致します。
天ノ河高校は4時44分44秒、その不吉な数字が並ぶ時間にのみ異界の門が開くようになっているのです。
あなたたちはその門をくぐってしまった。
だから、この世界へと魂が迷い込んでしまったのです。
この世界では元の世界で宿っていた魂は原型を保てず消滅してしまう。
つまり、あなたたちは死ぬのです。
お可哀想に。
そんな可哀想なあなたたちに、ひとつだけいいことを教えてあげましょう。
私たちと鬼ごっこをしましょう。
その間だけ、あなたたちは自分の魂を探す時間を設けられます。
校舎内に散らばった5つの魂の破片を集められれば、たちまち生の世界へと変えることができるでしょう。
ですが、気をつけて。
次に異界の門が開かれ、他の魂が迷い込んだ時あなたたちの魂は死の世界に囚われる。
永遠に戻ることはできません。
だから、それまでに集めること。
もちろん全員が魂の破片を見つけ終えるまで、誰1人として変えることはできませぬのでご注意を。
また、元の世界に戻るには私たちの遊び相手“生贄”を差し出してくださいませ。
ふたつの条件がそろった時、元の世界に帰れるでしょう。
また遊べる時間を楽しみに待っております。
それでは、ご武運を。』

一通り読み終えた時、私の脳にあのバケモノの記憶が蘇る。
鬼ごっことは到底言えないものだったけれど、あれがそうなんだとしたら。
全て現実だとしたら?
そう考えてもおかしくはないと思う。
私はその真実を確かめるため、5人に電話をかけた。

***

私たちは人通りも少なく、普段誰も使わない公園の倉庫に集まった。
そこを指定したのは、いつも使っている場所だからだ。
みんなが集まったのを見てか、風磨が私に聞く。

「おい、いったいこんな時間になんの用だよ」

そう言われて、私は無言で先程読んだ本を突き出した。
みんなの視線が黒い本に集まる。

「これ…なに?」

柊奈の言葉に、私は首を傾げる。
どうして私の机にあったのに、柊奈のところにはなかったのか。
柊奈が特殊なのかと思ったが、どうやらそれは違うようだ。
みんなこの本を初めて見るような目で見てくるから。
私はため息をつき、最初のページを開いて渡した。

「これ読んで。きっとみんな思い浮かぶことがあるはず」

そう言うと、渋々と言った様子でみんなが黙読し始めた。
数分経ってようやく読み終えたのか、再び私に視線が集まる。
それから、実璃が震えながら言った。

「こ、これ…さっきまでのことは夢じゃなかったってこと…?嘘でしょ…?」

「いや、多分そういうことだと思う。僕らは一体なにをすればいいんだ…」

実璃の言葉をすぐに否定した迅。
それによって、空気が凍りついた。
その中言葉を発したのは珍しく碧だった。

「ねえ、この本の続き見たの?」

そういえば、最初のページに気を取られて見ていなかった。
こんなに分厚い本なんだ、きっとたくさんのことが書いてある。
私は座ってから実璃から本を受け取り、次のページを開いた。
そこには6人の顔写真が載っていた。

「なにこれ…」

みんなが本を覗き込む。
右上の私の写真の下に、なにか書かれていた。

『舞良羽海 高校2年生
集めた魂のカケラ:0
前日に捕まえられた鬼:動きの鬼』

“動きの鬼”と聞き慣れない単語が書いてあることに首を傾げた。
みんなも同じように書かれていた。

「これ、どういうこと?」

「と、とりあえず次のページ見よーぜ」

迅の言葉にそう言う風磨。
私は頷いて次のページをめくった。
上の方に太い文字で「鬼ごっこ ルール」と書いてある。
私たちはそれを上から読んでいった。

『《午前4時44分44秒。その時間だけは校舎内には入るな》
その時間に校舎にいると、その人の世界が逆転する
生の世界にあったはずの魂は死の世界へと入る
死の世界では死ぬことができない
鬼ごっこをさせられる
開放条件はふたつ
ひとつ、次の生贄を差し出すこと
ふたつ、魂を全て集めること
条件をクリアしないまま次の生贄が死の世界に足を踏み入れれば生の世界に戻った時に魂が消滅する
条件をクリアするか生贄が来るまで明日は訪れない
この世界の100年が生の世界の1秒である』

それを読んでから、最初に声を出したのは実璃だった。

「い、生贄ってどういうことよ…。それに、魂のカケラって?どこにあるっていうの?」

恐怖からくるものなのか、声が震えている。
しかし、私たちがそのこと絵を持っているわけもない。
とにかく今は、読み進めていくしかないのだ。

「続き、読もう」

柊奈の声に、私たちは再び視線を戻した。
次の文を読んでいく。

『午前0時になると時は戻る
鬼ごっこは4時44分44秒に始まる
鬼は6人(目の鬼、耳の鬼、声の鬼、動きの鬼、黒い人、呪われ)
魂を集めなければならない
魂は天ノ河高校所属校舎に5つ隠されている
自分の魂以外は回収することができない
昼間のうちに生贄を探せ
死の世界で死ぬことはできない
死の世界で明日は訪れない』

だいたいわかってきた。
つまり——。

「午前0時になると、僕たちがきた時間に戻っちゃうってことだね。それで昨日の鬼ごっこが繰り返される。多分、魂のカケラっていうのはその時に集めるんじゃないかな?」

いつでも冷静な碧がいてくれて助かった。
私がパッとまとめられなかったことも、瞬時に判断してまとめてくれる。

「ここに死ぬことができねぇって書いてあるけど、それは今の状態のことを言うんだよな?」

「うん、そうだと思う。そしておそらく、僕たちがあそこにいる限り、時間は進まないんじゃないかな?」

「ん?どういうこと?」

碧の言葉に迅が首を傾げる。
たしかに、時間が進まないなんてことがあるのだろうか。

「僕の仮説だけどね。みんな、起きた時に時間を確認してない?」

その問いに、私以外のみんなは首を横に振った。
しかし、私は首を縦に振った。
たしかに見た。
私たちがあの場所にいた時間から、数秒しか経っていなかったことを。

「学校の中にいるときから12秒しか経ってなかったのは覚えてるよ」

私のその言葉に、みんなが息を呑んだ。
つまり、あの空間は時間さえもねじ曲げてしまうのだ。
だから私たちが死なないようにできるのではないだろうか。
本当に恐ろしいことに巻き込まれてしまった。

「そういうことね。つまり、ここに書いてある非現実的なことも、きっと実現できてしまう。もうこの世界は、俺たちがいた世界じゃないんだよって碧は言いたいわけね」

「いやぁぁぁ!!」

迅が続けた言葉に、実璃が悲鳴をあげて頭を抱えた。
もう完全にパニックになっている。
昨日1番に殺されたのは実璃だったのだ、そうなるのは当然だろう。

「実璃、落ち着いて」

柊奈が実璃の背中をさするけど、効果はない。

「む、無理だよ…!!どうやって落ち着けっていうの…!?私たち、もう一生帰れないの?そんなの嫌だよ…!!」

「いや、解放条件があるよ」

「え…?」

そう、あの本にも書いてあった。
魂のカケラを集めること、そして生贄を探すこと。
私たちが助かる条件はあるのだ。

「そういやそんなこと書いてあった気がするな。つっても、わかんねぇことだらけだぞ」

風磨の言う通り、わからないことだらけなのは事実だ。
鬼の存在だって、意味がわからない。
昨日実璃と私が殺されるのになぜタイムラグがあったのかも。

「んー、この鬼ってのじゃね?」

「は?あんたなに言って…」

風磨の言葉に振り返った柊奈は、驚いたように目を見開いた。
風磨の手には、いつの間にかあの黒い本が握られていた。
私は風磨が見てるページを覗き込む。

『鬼
目の鬼:目以外が発達しておらず、見えた生き物をすべて排除する。
耳の鬼:耳以外が発達しておらず、半径2メートル以内で聞こえた音の場所を攻撃する
声の鬼:声帯が異様に発達しており、参加者の声を真似する。その声に反応した者を排除する。
動きの鬼:目や耳は使っておらず、気配だけを感じる。半径2メートル以内で動いた者を排除する。見えているかは関係がない。なお、瞬きや呼吸、風による揺れは例外とする。
黒い人:返り血で染まっているはずが、呪いによって黒く染まっている。白色のクマのぬいぐるみを持っている。その日に指定された遊びのルールに従う。「見つけた」「どこにいるの?」以外の言葉を発しない。また、人を見つけると笑う。瞬間移動ができる。
呪われ:黒い人同様に返り血で染まっているはずだが、呪いによって黒く染まっている。白い人形のぬいぐるみを持っている。見つけた生き物を排除する。常に言葉を発し、無邪気に遊ぶ。また、人を見つけると笑いながら追いかけてくる。呪われに殺された者は次の日最初に触られた部位が呪いによって使えなくなる。』

これだ、私たちはこの「動きの鬼」というのに殺されたのだ。
どうすれば、殺されるまでのタイムラグにも説明がつく。
私は固まって動かなかったから、真っ先に動いた実璃が殺されたのだ。
そして、次に動いた私が殺された。

「風磨にしてはやるじゃん」

「お前…一言余計なんだよ」

素直に驚いているはずなのに、風磨に対しては相変わらず一言余計な柊奈。
そして碧が言った。

「昨日はこの動きの鬼に殺されたってことだね」

「おー、だとしたら、動かなきゃいいだけじゃん。簡単じゃね?」

「いや、そうもいかないよ」

風磨は相変わらず単純思考すぎる。
私は碧の言いたいことを汲み取った。

「この鬼全員が来てみなよ。逃げるために動かなきゃいけないのに、動いたら殺される。逃げる道なんてなくなるんだよ」

「た、たしかに…」

さすがにこの恐ろしさを理解したみたいだった。
他にも気になるのはいる。
この“黒い人”ってのと“呪われ”はなんなの?
瞬間移動できるとか、マジのバケモンじゃん。

「ねぇ、この下の校内放送ってのは俺らが聞いたやつ?」

私はその下の文に視線を移した。

『校内放送
例:「普通科校舎が閉鎖されました」「黒い人が普通科校舎一階に移動しました」
上記の2種類の校内放送が行われる。
閉鎖された校舎にいた参加者は、その校舎の外に出ることはできない。
外部から閉鎖された校舎に入ることはできるが、入れば出ることはできなくなる。
次の閉鎖の校内放送で、前に閉鎖されていた校舎は解放される。
黒い人が瞬間移動した場所が放送される』

なにそれ、校内放送なんか流れんの?
ん?てか、今迅なんて言った?
“俺らが聞いた”って言ったよね?

「ねえ迅。どういうこと?校内放送を聞いたの?」

私の質問に、迅と碧が頷いた。

「うん。俺ら動けなくってさ、風磨がその後全速力で逃げ出して。あのバケモノが風磨を追ってったんだよ。それからしばらくして、校内放送が流れて…」

「その後目の前に現れた女の子に殺されたんだ」

風磨は校内放送が流れる前に殺されたのだろう。
わけわかんないって顔してるし。
でも、これはいい情報だ。
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