あと30日で、他人に戻るふたり
夕飯は、あっという間に食べ終わった。

お腹がいっぱいすぎてしばらくの間テレビを見ていたものの、このままでは片付かない。


ひと息ついたところで空になった鍋を見下ろして、私は立ち上がる。


「洗っちゃいますね」

「手伝う?」

「いや、大丈夫です。鍋だと洗い物も少ないので」

そう言ったのに、彼はなぜかそのまま食器を持って立ち上がった。

「それ、置いといてください」

一歩キッチンに踏み出した彼に、思わず声をかける。

「……大地さん、それまだ熱いです」


言った瞬間、自分で固まる。

────また呼んだ。
……なんでだろう。


けれど、彼は特に気にした様子もなく、

「平気」

とだけ言って、シンクにお皿や鍋を置いた。

その背中を見ながら、私は立ったままでまだ動けなかった。


しばらくして、水の流れる音がキッチンに響く。

何も言わないまま、彼が当たり前みたいに手を動かしている。
さっきまで一緒に食べていた鍋の匂いが、まだ部屋に残っていた。


ただ名前を呼んだだけなのに。
それだけのことなのに。


自分で呼んでおいて、少しだけ気になってしまった。



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