あと30日で、他人に戻るふたり
「そんなに急がなくても、逃げないですよ」

「でも熱いうちに食った方がうまい」

「それはそうですけど」

「あと、これ」

そう言って、彼がおたまで鍋の中を軽くかき混ぜる。

「さっき自分で切ったやつ、どれか分かんない」

「分かりますよ」

「え、分かるの?」

「だって全部大きさバラバラじゃないですか」

「……」

一瞬だけ、彼の動きが止まる。

「ちゃんと切ったつもりなんだけど」

「切ってましたよ」

「鍋に入れたら分かんないって言ってたの、誰だ?」

「そんなことも言いましたっけ」


少しだけ間があって、たぶん彼は私を見たと思う。
でも、ここで目を合わせたら負けだから、意地でも見ない。

取り分けたお皿から、するすると鍋がなくなっていく。

「……まあ、うまいからいいか」


つぶやくように言って、また彼は鍋に箸を伸ばしていた。



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