あと30日で、他人に戻るふたり
そもそも、二人でどこかに出かける理由がない。

しかし、私の思いとはよそに篠原さんの受け取り方はまったく違うものだった。

面白そうにふふっと笑う。

「そうよね、旦那様インドアっぽいものね」


……“旦那様”じゃないんです、篠原さん。
という、私の心のつぶやきをなんとか我慢する。


「うちも主人の仕事はシフト制だから一日会わないこともあったりするのよ。だからリズムがバラバラで大変な時もあるけど…」

篠原さんは肩に掛けているバッグを持ち直して、「でもね」と隣を歩く私を見る。

「帰ってくると、なーんだか安心しちゃうのよねぇ。家事なんて手伝ってもくれないし、ただ座ってるだけなのに、なんでなのかしらね!不思議なもんだわあ」


あまりになんてことないようにそう言ったので、私は思わず足を止めた。

瞬時に思い出してしまう。

ソファでゴロゴロしながらスマホをずっと見ている姿や、『めんどくさい』と言いながらパンを食べている姿を。


「藍沢さん?」

呼びかけられて、我に返ってまた歩き出す。

「……パン屋さん、一緒に行ってもいいですか?」

「もちろんよ!駅の近くだからすぐそこよ。行きましょ行きましょ!」


篠原さんは明るく笑って、私の腕を軽く引いた。

お隣さんが篠原さんみたいないい人でよかった。
そんなことを思いながら、私も少しだけ足取りが軽くなった。




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