あと30日で、他人に戻るふたり
どっちも譲らなくて、どっちも正解がない。

そんな他愛もないやり取りをしながら、「でもね」と私が付け足した。

「住んでるうちに、だんだんその土地の味が普通になっていくんですよね。最近は濃い味に慣れてきましたもん」

「じゃあ今度作るうどんは、濃いめにしてよ」

「────それは要検討です」

「厳しいな」


ふと隣を見ると、大地さんが珍しくスマホをいじっていない。それだけの変化なのに、ちょっとだけ驚いた。


「……そういえば」

なんとなく、そのまま続けてしまう。

「私たち、仕事の話ってあんまりしないですよね」

彼が隣で首をかしげるのが見えた。あまり気にしてなかったらしい。

「そうかな。言われてみれば……そうか?」

「はい。なんか、お互いそんなに話さないなって。職種も全然違いますもんね」

「そっち開発だっけ?」


どうやら、“開発”というワードだけは覚えているらしい。
思い返すと、初日に名刺を見せた時にもそこだけは食いついてきた。

でも、だからといってそれだけではない。


「そうなんですけど、私がいる部署は営業と開発の間に挟まれてる〜、みたいなところで。まるっきり開発ってわけでもないんですよ」

「今やってる仕事、好きなの?」


あまりにも自然な流れで聞かれて、一瞬、言葉が出なかった。

単純に素朴な疑問で聞いただけかもしれない、深くもない会話の一部のような。
それでも、今の私にはすぐに答えられるものではなかった。


「……どうなんでしょう」

視線を落として、
テーブルの木目をぼんやりなぞる。

「やりたくないわけじゃないんですけど。好きかどうかって言われると…」

少しだけ間を置いてから、続けた。

「なんか、こうした方がいいって言われると、それが正しい気がしてきちゃって」

言葉がうまくまとまらないまま、それでも絞り出す。

「気づいたら、そのまま進んでるっていうか」


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