あと30日で、他人に戻るふたり
「……だ、誰ですか?」

つい口から出てしまった。


ワイシャツに細身のスラックス。
そして、青いネクタイ。

……え?本当に、誰?


「ひどくない?」

スーツを着た本人は、不満げにいつも通りの顔でそう言う。

「いや、違うんです!なんかこう、」

うまく言葉にできなくて、手をひらひらさせる。

「なんで急にちゃんとしてる人みたいな服なんですか?」

「……ちゃんとしてないみたいに言うけど、ちゃんとしてるよ」

「そうなんですけど!いつもがあれだから…」


言ってから、さすがに失礼だったかと思って口をつぐむ。

しかし、こちらの動揺はお構いなしに彼はさっさとリビングから出ていってしまった。
寝ぐせを直しに洗面所へ向かったらしい。


同じ人なのに、別人みたいで。

心臓の挙動がおかしい。


とりあえず洗面所まで追いかけて、後ろからじっと背中を見つめてみる。

私の視線に気づいて、呆れたようにこちらを振り向いた彼がため息をついた。


「……どうしたの、さっきから」

「────いや、なんでもないです」

「めちゃくちゃ見に来るじゃん。そんなに確認いる?」

「そりゃ…」


言いかけて、なにを言おうとしたんだと踏みとどまってリビングへ引き返した。


爆発していた髪の毛を例の魔法のワックスで見事に整え終わった大地さんが、リビングへ戻ってくる。

「……美月、なにしてんの」


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