あと30日で、他人に戻るふたり
ソファに座ってクッションに顔を埋めている私を見て、いよいよ首をかしげ始めた。

メイクもしてない、着替えてもないこちらの準備を気にしてくれているらしい。

「間に合うの?そんなダラダラして」

「誰のせいだと思ってるんですか!?」

「え…、誰のせい?俺のせい?」


不思議そうな顔をしながら隣に座ろうとするので、急いで彼が脱ぎ捨てていた部屋着を投げつけた。

「もうやだっ」

ほとんど自分に投げかけた言葉を口にして、私は寝室へ急いだ。


部屋着をそのへんにぶん投げられて、彼はどんな顔をしているのか想像もできなかったけれど。

たぶん、興味なんてないだろう。

朝からやめてほしい、本当に。
隠し球を出された気分。


爆速でメイクと着替えを済ませて、遅れを取り戻す。

バッグをつかんで寝室を出たら、今度はジャケットを羽織って完全にスーツ族と化した大地さんが私を待っていて、思わずその場に立ち尽くしてしまった。


「美月、電車は?大丈夫なの?」

「今日どうしたんですか、その格好」

電車の時間を聞いてくれているのに、答えない私も私だ。

「仕事だけど」

「普段のあれも仕事ですよね?」

「一応ね」


話しながら、ふたりで廊下を進む。

玄関でパンプスを履いていたら、珍しく彼がシューズボックスを開けて革靴を出した。

出しっぱなしのスニーカーの横に、革靴を置いてそれを履いている。


「今日なんかあるんですか?」

「本社の会議に出なきゃいけなくて」

「……ふーん」

「あのさ、」


ここでようやく、大地さんと目が合った。


「俺、そんなにスーツ似合わない?」


────分かってない。

ほんとに、この人は分かってない。


私は笑いをこらえて、彼の質問には答えずにドアを開けた。



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